《MUMEI》

その姿勢のまま、ハルは魔物の雄叫びを微動だにせず、言葉を連ねた。

「早く終わらせるには、相手の弱点を突くことよ。」

「弱点?」

真面目な顔付きで問うと、ハルは心底驚いたのか、肩にかかっていた吐息が止まった。

「…大丈夫。予想の範疇だから。」

そう言い、二回首を横に振ると、深い溜め息を吐いた。

「どうした?」

思わず振り返ると、ハルは俯いていた。

「何でも無いわ。続けるよ、カケル。」

「……おう。」

何故か不本意な空気を感じたが、本当に時間が無い為、話を進めた。

「あの象の弱点は、大きい両耳。それと所持してる大きな杖。だからカケルはどうにかして耳をやってくれる?」

「うん解った。…ところで、ハルはこの魔物倒せる位のレベルなのか?」

「…正直、魔方陣を喰らったら三発持たないわ。」

俺は少し顎に空いている手を当て、考えるポーズをとる。

「…こいつは俺一人でやる。ハルは見ててくれ。」

「…………は?」

五秒程の間を要し、ハルは気の抜けた声を漏らした。

「俺に良い考えがあるんだ。ちょっとアイに守られててくれる?」

「へ?」

言うと同時にアイにウインクまがいの物を披露すると、アイはやれやれ、といった形でまだ見慣れない魔方陣をハルの真下に出現させた。

すると、地面から黄金に輝く光の檻が魔方陣の外線上に浮かび、ハルを囲う様にして出現した。

「ちょっ…カケル!」

ハルは絵に描いた様に光の檻に両手を掛けた。まるで囚われの姫君の様だ。


「待ってろって。必ず戻ってくるから。」


笑顔で言い、踏み出そうとした時。


「行かないで……!」


やけに激しく抗議するので振り向くと、ハルは目に涙を溜めていた。

「大丈夫だって。」

ハルは尚も抗議を続け――…ようとしたのだろうが、言葉にならないのか、小さく震えながら首を横に振り続ける。

その悲哀に満ちた表情にこちらまで悲しくなりかけたその時。

俺の足元に魔方陣が描かれた。恐らく象野郎が発動したものだ。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫