《MUMEI》

「敵のものです、カケル様!」

「判ってる!」

叫びながらも緊張は俺の体を痺れさせる。俺は魔方陣から逃れるべく、横に跳ぶが、やはりというか、間に合わなかった。

魔方陣に触れている左足から強い衝撃が走った。魔方陣は青のエフェクトを放ち、衝撃は俺の全身を駆け巡り、ヒットポイントを五分の一程削り取った。

「カケル!」

ハルの高い声が俺の借り物の鼓膜に響いた。

十分だ。


「アイ。ハルを頼んだ。」


気合十二分で集中を尖らせる。もう笑顔は浮かべない。あるのは剣と相手の弱点。

正直な所、実際俺は良い考えなんて一つも頭には無い。強いて言うならハルに恩返しをすることだろうか。

こんな俺とここまで仲良くなってくれて。

その思いは、ハルが俺の名を呼ぶ度に強くなる。

だからこそ、集中する。ハルが確実にこの《難攻不落》をクリアするために。

自分の確かなる思いを胸に抱き、俺は右手で剣を引き抜く。感覚的にはもう随分体に馴染んでいる気がする。今日手に入れたとは到底思えない。

引き抜いた剣を両手でしっかりと握る。まるで体の一部の様に。

一度目を深く瞑り、勢い良く開く。

「スキル発動。コード:ラビルキック。」

瞬間、空を踏み、たっぷり五秒程溜めてから、思い切り蹴り飛ばす。体は前傾姿勢になり、更に空を切り、進む。

ラビルキックとは、今俺がして見せた通り、空中(つまり足が地面に付いていない状態)で、ジャンプをする事。ゲーム風に表現すると、二段ジャンプ、と言った所か。だが無限回数出来る訳では無い。微量だが魔力を消費するのだ。

ハルは驚いているだろう。このスキルは全職業が覚えられるが、レベル二十に達しないと習得出来ない物だからだ。

そんな二段ジャンプを成功させ、象に接近を試みる。

が、案の定魔方陣をかけられてしまった。

今度は地面に描かれた魔方陣内にいる俺を包む様に、黄金の光が天まで放たれた。そして、その光の中を一瞬で埋め尽くし、雷に似た線が俺を通過していく。

「くっそ…。」

言ったところでもう遅く、ヒットポイントはこれまた五分の一程削り取られた。

ヒットポイント残量は、五分の三あるかないか。

策を練らなければ俺がゲームオーバーになる勢いだ。焦りを感じ、思考回路を巡らせる。

魔方陣の光が完全に消える。

「スキル発動。コード:ラビルキック!」

出来るだけ口を明確に動かし、コード名を叫ぶ。例の通りに空を蹴る。

象は先程の魔方陣を発動したせいか、今はその場で地団駄を踏むばかりだ。おかげで俺は象まで残り五十メートル、というところまで来た。

今だ!

そう思い、剣を振りかざす。

が、しかし。同時に象は俺に杖を振りかざした。

「畜生…!」

俺は振り上げた手を胸元に持っていき、両手でクロスした。多少のダメージ軽減を期待し、突かれた杖を真っ向から受ける。そのまま下に振り下ろされ、俺は一瞬で地面に背中を叩き付け、元の位置まで戻された。

「あと少しなのに…!」

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