《MUMEI》
弱虫
「せっかくゲームが始まったっていうのに。泣いてるやつなんかいたんだ」

「ッグスッ…ぅるせぇよぉ!」

「泣くほどに悲しくて辛い出来事…か。話してみなよ、私に。知らない奴だからこそ、
 話せることって…あるだろ?」

恭介は相手に顔を見せないように屈んで下を向き、服の袖でゴシゴシと顔をこすりつけ、
涙を拭くと、振り返った。

「なんでしらねぇやつに話さなきゃいけねーんだよぉ…!」

拭いても拭いても、あふれ出てきて、止まらない。
声も震えて、恰好つけることすらできない。

「あんたさぁ…泣いてる知らない奴に話しかけるほうが勇気いるってーの…。
 いいから。今ため込んでるもの、全部吐き出して楽になれよ。
 あんたが泣き続きてると…話しかけたあたしが帰れなくなっちゃうじゃん」

そこにいる、男勝りだが優しい声の、深い黒髪の長いひとつみつあみの少女が、
自分を護ってくれる杏に見える。
幼いころ、あいつは俺よりだいぶ年下なくせに、俺より強かったし、勇気もあったし、何より、優しかった。
俺の同級生が、俺を虐めてきた時。
杏は構えてキックをぶちかまして、相手が無様に腰を抜かして、泣きながら帰っていく姿、
今でも覚えている。でも、一番無様なのって、そこで泣きながら護られている自分なのかなって。
あいつがいなくなって、今までの記憶がそれを考えさせてくれた。

そこで俺の話を聞こうとしてくれてる、
その少女に。

俺は杏のことを、話した。



「なぁ、お前、早とちりしてるんじゃない?
 まぁ…血のついた靴を見たとたんパニックになって逃げて来ちゃったわけだろ?
 その靴についてた赤い液体は……血の可能性が高いけどさ、まだ…靴に血がついてただけで、
 死んだって決まったわけじゃないじゃん?
 まぁ、その靴がたまたま別の子の…ていうのもあるけどさ。」

しゃがんで目が赤くはれた俺の瞳をじぃっとみて、
真剣な顔して…

「まだ、死んだって決まったわけじゃない
 
 …まだ、間に合うかもしれないよ」


俺は立ち上がって、すぐさま走り出した。
それを見て彼女は微笑んでいた。

ありがとう、俺はなんで、あのとき…探し続けなかったのだろう。
ありがとう――― 
君に、話しかけてもらえてなかったら―――




あいつを探さずに、そこで泣いたままの、ただの泣き虫のままだった。




いつも助けてくれてたんだ、今度は俺がお前を助けてやるよ。
涙が止まらなくても、体が限界を迎えても、骨折っても、車にひかれても――――――

見つけるまでは、絶対に探し続けてやる!!


弱虫からの、脱却。

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