《MUMEI》

「杏!!!」

東京の街を、鏡の東京の街を走りぬける。

いったいどこにいったんだよ!!





もう10分は走り続けた。
息が切れて、転がっていた石に躓いて前に倒れ込んだ。


もう…死ぬかも…。


「諦めんなよ!バーーーーーーーーカ!!!」


寝てる俺の腕を思いっきりつかんで、起き上がらせる。
先ほどの少女。
俺に再び探すように促してくれた少女。

諦めかけた俺に、何度も何度も手を差し伸べてくれるのか―――?



「ほら、行くぞ!!お前が10分走ってるうちに、見つけたから!!」



彼女に腕を引っ張られて走っていく。

足、速いんだな――。

まるで、風に乗っているかのように、速く走っていた。




ついたのは、オンボロの倉庫。

「ここにあんたの妹がつかまってる」

「なんで見つけたのに助けてくれないんだよ」

「…はぁ?何、ここまで来といて怖がってんの?…知らない奴に助けられたって、お礼言われて―――それで終わり。
 あんたが助けてくれれば―――杏ちゃんも、嬉しいに決まってんじゃん」

「ほら、行けって!お兄ちゃん!!」

そういって俺の背中を思いっきり押した。


―――


「あぁ?なんだぁ?」

「なんだよこいつ!ちょー弱そう」

「アハハ!ボコっちまおうぜ!あとから金とりゃいいんだしよー!」

「さっすがタケちゃん!まだ“依頼のチビ”を見つけられちゃあ困るしなぁ!!」



―――依頼のチビ?



杏の事か?


5人のチャラい男たちが俺にむかって走ってくる。

なんどもなんども、やられっぱなしの情けない奴でいられるか。



―――怖さを押し殺して、今までのことを思い出す。



男がパンチを繰り出す―――その時!!



今!!!!



右足を後ろに引いて勢いをつけ―――


――――思いっきり、前に突き出した。



靴の先が、相手のみぞおちにめり込んで、嫌な音がした。

「ぐはぁぁぁッ!!」

相手は、血を噴き出しながら後ろ向きに倒れた。



他の4人はその光景を目にして、目が点になっていた。

男は後ろに下がって、何かに引っかかると、腰を抜かしてしまった。

だが、これで終わりではない。

男が後ろに転がっている、鉄パイプを手に取ると、イヒヒ、と笑いだして、
他の男たちもパイプを持ち始めた。

4人に四方を囲まれ、何時たたかれるかわからない状況になった。

「オラアァァァ!!」

後ろから、鉄パイプが振り下ろされる。

…気づくのが遅かった。

背中に、ものすごい痛みが走った。

「がぁぁぁッ」

俺は四つん這いになった。

「ざまぁみやがれ!!」

他の男たちは、足で踏んだり蹴ったり、たたいたり殴ったり。

口からは血が出て、
もう、死ぬんだなって、思った。


鉄パイプが、再び振り下ろされる。

「死ねぇぇぇぇぇええ!!」

目をつぶった。


「見てれねぇんだよ馬鹿ヤロ――――――!!!!!」


「ぐおぁッッ」


目を開けた。
見開いた。

鉄パイプの落ちたカランカランという音が倉庫に響いた。

そのあと、男が地面にたたきつけられるのを見た。

見上げると、そこにはやっぱり、ひとつみつあみの少女。

「なんども…悪い」

「みっともなくて、見てれなかったんだよ!この馬鹿!!」


――――“みっともなくて見てれなかったの!この馬鹿兄貴!!”


…本当に、よく似てる。


なんなんだろうな、本当に、これは運命の出会いなのかもしれない。





本当に俺は…助けてもらってばかりだな――――。





そのまま俺は、重たい目蓋に負け、倉庫のほこり臭い床に倒れ込んだ。

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