《MUMEI》

「というわけ。わかった?」

「ボーダーのマフラー…確かにあれは杏のだ」

「じゃあ…その血も杏ちゃんの…」

「…」

空から、白い玉が舞い降りている。

雪。

家を出る前も、こうだったなぁ…なんて。


ピルルル…ピルルル…


「なんだぁ?」

彼女と自分のタブレット端末から音が鳴り響く。
画面にはメッセージのアイコン。

「なんだ、これメールも受信できるんだ」

「二人同時ってことは、きっと主催側からだな」

メールのアプリをタップする。


『メッセージを一件受信』

『タイトル:主催側より、プレイヤーにお知らせ

 みなさん、鏡の世界は満喫できましたか。
 午前0時より、開幕式を開催します。
 開会式の後、しっかりとした説明会がありますので、全員強制参加となります。
 参加しなかった場合、ゲームのプレイに重要なアイテムが入手できないため、
 圧倒的に不利となりますのでご注意ください。
 それでは。

                  −END−               』

「あんた…この怪我では行けないよね」

「…仕方ねぇよ…。俺はマニュアルのアプリでも読んどくか」

「でも、圧倒的に不利になるってかいてあるじゃん…。」

「じゃあ無理してでもいくべきか…?」


「どうしたの。その怪我。まだ始まってもいないのに」

向こうからおとなしそうな青少年が歩いてくる。あれ…?なんか聞いたことある声のような…。
俺が許可してもいないのに、彼女がぺらぺらとそいつに事情を話してしまった。

「それは…酷だったね…。とりあえず、傷、見せて。俺、医療学校いってたから、
 少しは役に立つことができるかもしれない」

彼女がコートとシャツをめくる。

「これ…骨折れてるよ。結構ヤバいかも。
 痛いかもけど、少し触らせてもらうよ。」

傷の部分にゆっくり触れた。

「がッ!!

「すぐ、終わるから。ちょっと我慢して…」

柔らかく光る青白い光が、彼の手のひらから放たれている。

彼は何故か汗をかいていた。

光が消えると、彼は背中から手をどけた。

「はい、終。今の事は、誰にも言っちゃダメ。秘密にしておいてほしい。
 頼んだよ。」

「…痛く、ない…」

「また逢うかもしれない。だから、その時まで。じゃあね」

「ちょ、ちょっと!!」

彼は歩き始めた。

「名前!なんていうんだ!」

歩みをとめた。振り返る。

「僕は…王生 零。…君は?」

恭介は立ち上がる。

「俺は木佐森 恭介。なんと礼を言えば…!」

「礼はまた今度会った時。ね?」

そういって微笑むと、歩き去って行ってしまう。



「私の事は、シカトかよ…」

「どうやったんだろうな…」

「それよりさぁ、あの人、第一秘書って言ってた人に似てない?」

そう言われてみると、髪形も一致するし、声も似ている。

「もしかしたら…」

「かもな」

「あ、そういえば、あたしあんたに名前聞いてなかったね」

「…そういえば」

「私は上原 梓。梓って呼んで。改めて同じプレイヤーとして!よろしくお願いします」

「俺こそ…。俺は木佐森 恭介。さっき聞いたか?まあいいや。……助けてくれて、ありがとな」

「いいんだよ。恭介がみっともなかったから、助けてあげただけなんだから…さ。」






本当に助けられてばかり。
なんて情けないのだろう。

…どうしたら、俺は助ける側の人間になれるんだろうな―――――。

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