《MUMEI》

「きゃあっ!」

杖に当たっただけで、あんなにも遠くにいたカケルがここまで飛ばされた。砂埃だけで声を上げる程に大きな音を放った。

やっぱりあの象、コンビプレイじゃないと倒せないのかもしれない。

というのに、アイに何度頼んでも「出来ません。」の一点張りだ。

せめて、せめて…!

「カケル!」

檻の中からまだ側に居たカケルを呼び止める。カケルが振り向くよりも素早く手を正確に動かし、印を結ぶ。

「スキル発動。コード:ヒルリア。」

コード名を呟くと、カケルのヒットポイントバーが八分の一程色を取り戻した。

「アリガトな。」

カケルは振り向かずに応えた。

ぐっとカケルが足に力を入れた時、つい口走ってしまった。


「死なないでね…!」


檻の中からしか言えないなんて。しかし抗議したところで出してくれないのだ。だから仕方がないのだが、どうにも顔が崩れた。

でも確かに目を開けてカケルを見ると、砂埃の中、笑顔を見せた。

瞬間入れていたであろう力を解き放ち、また戦場へと向かって行った。

「カケル様は何を考えているのか…。」

未だ魔方陣の持続の為、私の元を離れないアイが、不意に「出来ません。」以外の声を発した。

「どういう事?アイ。」

真っ直ぐに目を見ると、アイも応える様にじっと目を合わせ、またカケルを見ながら、口を開いた。

「また今と同じ方法で行くならば、確率から言って斬撃が当たる距離まで詰めるには相当に困難です。いくらカケル様といっても、せいぜい二十メートルが良いところ。到底刃は届きません。」

一度も瞼を動かさず、少し早口に言う姿勢に、不安に似た物を感じた。しかし彼女…人工知能から見ても、敗北の確率の方が高いようだ。


ならば何故?


彼は笑ったのだろうか。


考えがあるから?

自らの力に自信があるから?

私がそう見えただけ?


私を不安にさせないため?


きっと一番の後者だろう。

出会ってまだ一日と経ていない私が言うのもなんだが、カケルはそういう人間だ。

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