《MUMEI》

リビングに行くと、トウコが、立ってたんだ

けど、俺と目を会わせない

………言葉が出なかった…

………もう、お通夜じゃないんだから…
タクヤ、男から話すのがマナーよ

ユイに、そう、言われたんだよね

……座ろうぜ

トウコは、座らなかったんだ

………再び立ち上がり、トウコの前に行ったんだ

……サヨナラは、受け取ったよ
勝手なサヨナラだったね……

!………

キスしたんだ、トウコに、荒々しいキスを

俺は、トウコが必要だ
だから、サヨナラを、受け入れたけど、迎えに行くつもりだった
三人で暮らしたい……

………トウコは、俺を見ない

もう?!、なんで難しくするのよ!
お帰り、ただいま、で、良いじゃない!
トウコさんの服もそのままなんだよ!
空白の時間なんかすぐ埋まるわよ!
死ぬまで一緒なら、たった数年じゃない!

……ユイ……

タクヤ……どっちが本妻でも構わないけど、女の本気をナメないでよね
トウコさんは、タクヤを守りたくてサヨナラしたのよ……

……男の本気をナメるなよ
逃がさねーよ、ユイも、トウコも
絶対に、逃がさねーからな!

わ、わたし、わたしは……

トウコ、先に結論をくれ
三人で生きてく、そう、結論をくれ!
何がどうでも!
苦しくても辛くても!
…………とにかく、そう、決めてくれよ…

………いいの?…

トウコと、目が会ったんだ

トウコだ………間違いなく、トウコだ…

………頼む……そう、答えてくれょ…

タクヤ………タクヤー!…

トウコを胸に抱いた
痩せ細っちゃってるよ……

泣き叫んでた…トウコ…

……変だ?、呼吸が荒い、過呼吸?!

タクヤ!

ユイがビニール袋をトウコの口に当てたんだ

これ、押さえてて
薬あるの

手際よく、ユイが動いてる

トウコさん、お薬入れるよ

トウコの口に当ててるビニール袋に、ゴムの部分があったんだ
そこに、針を刺しスプレーで何かを充満させてた…

トウコの呼吸が落ち着いてきた

ユイ、ずっとこうしてたんだな…
慣れてる、けど……

痛むのか?

ん……素早く動こうとすると、ね、でも、へーきよ…

笑みを見せてる、ユイ

凄いよ……ほんと、ユイは…

安静にさせなきゃ、寝室に連れてこう

わかった

トウコを抱えたんだ

トウコ、自分の手で、ビニール袋をしっかり持ってた

階段を上がり、寝室へ

屋根が斜めになってる寝室

手前はフローリングなんだけど、奥は一段高くなってて畳なんだ
その上に、布団をユイが敷いてた

俺はトウコを抱き抱えたまま、ユイを見てた

なぁに?

ん、凄いなって、不自由なく、動いてるんだね

……毎日格闘だったから、体力も付いたよ

格闘?

トウコさん、意地っ張りで、強情だから……

………そうだね、良くも悪くも意思が強いから…

女番のタクヤよね…無茶するし…

トウコを布団に寝かせたんだ

もう、ビニール袋要らないわよね?

ユイの言葉にうなづいてた

ユイがトウコの横に寝たんだ……

タクヤも来なよ…寝よう…眠くて…

ユイが、そう言ったんだ



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