《MUMEI》

カド族・・・・。三世紀に西の大陸から海を渡って来た、騎馬民族である。
当時九州地方で国を築き、この列島の中で最も力を持っていたヤマタイ族を、
圧倒的戦闘力で瞬く間に征服、吸収すると、まだ緩−ゆる−い絆で結ばれ、些細
−ささい−な事で争いの絶えない氏族達を統合していった。
彼らは現在の近畿地方に拠点を定めると、まだ縄文文化の色濃く残る東側の国々とは一線をかくし、交流を続けていたのだ。
それが不穏な戦の気配を見せ始めたのはここ数年の事。
カド族内部で熾烈な王位継承の争いが起こり、姻戚関係を結んでいたヤマタイ族に強力に推−お−されたジンムが権力を握ったという。
東西間の関係が悪化し始めたのも、その頃からであった。
「奴を―討てば!」
虎ノ介が両眼を底光りさせながら黒い影を睨み、ギリッと歯を噛みしめる。
太陽の表面を雲がよぎり、その事が逆に逆光の暗黒をやわらげ、ジンムと呼ばれる男の相貌−そうぼう−の細部をさらした。
男・・・・と言うよりも、まだ少年の
面影を宿す美貌に静かな笑みを浮かべる若者の姿に、意外性を覚える虎ノ介。
するとジンムの傍らに控えていた騎馬が、数歩前に進み出る。
黒衣を纏−まと−い、頭までフードですっぽり覆った長身の男が馬上で叫んだ。
「静まれーー!!我はヤマタイ族の
ヨモツ!!」
朗々と響きわたるバリトンの声に、大和王権側の兵士達がシンと一気に静まり返った。
虎ノ介はヨモツと名乗る男から、得体の知れない妖気を感じた。
その顔はフードの影になり、鼻から下しか見えない。
ジンムもそうだが・・・・奴もタダ者では無い。
フードの影の両目の部分が、明らかに一瞬、炎のようにオレンジ色に輝いたように見えた。
「我、神の声を聞けり!!」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫