《MUMEI》

「そうそう。あの頃は`守ノ護符´が魅力的だったよね。」

「その報酬見た瞬間《難攻不落》受けなきゃ、って気になったよな。」

思い出話に花を咲かせていると、時間は早いものだ、と自覚させられる。もう慣れた足取りで滑らかに人混みを掻き分け、目的地に着いた。

「カナ!」

「ハル!遅かったじゃん。カケルも!」

「ハルが途中でファンに捕まって、な。」

隣から感じるじっとりとした視線を軽く無視しながら、嘆息したカナに続けて話しかける。

「例のモノ、出来てるよな?」

「それ、誰に言ってんの?」

ニカッと向日葵を思わせる笑顔を俺に向け、親指を自らに立ててみせた。

「ちょっと待ってて。持ってくるからさ。」

カナは駆け足で広い店内に消えた。見える限りの店内風景は、刀と盾。その印象に尽きる。

壁全面に敷き詰められるように掛けられた刀と盾が目を奪う。そして、その一本一本の精密な事。どれも高レベルを要求されるに違いない。現在の俺でも装備出来ない様な品物も中にはあるだろう。

天井にさえ、刀の設計図に似た模式や、数字の羅列された紙切れが画鋲やテープで貼られている。

《鍛冶屋 フォックステイル》

カナが鍛治職人として営んでいる鍛冶屋だ。今では各地から人が集まるちょっとした名所になっている。俺とハルもすっかり御用達だ。
実はオリガルトに店を構えるっていう事は相当凄い事で、それだけでもカナはとても頑張っていると思う。

俺がゲーム内で気兼ね無く話せる数少ない友人の一人だ。

「カケル。」

俺がボーッと店内を見ていると、同じく俺の数少ない友人の一人、ハルが色の無い声で言った。

「何?」

つられて俺も声に色が無くなる。


「まさかカナの事好きになってないよね?」


「はっ…!なん……!………え…?」

「…何よその反応。怪しいわね。」

思わず一歩、二歩と後ずさる。茹で蛸状態であろう顔を片手で隠しながら聞き返す。

「全っ然そんな気ねぇよ!ていうかどうして…!」

「ボーッとカナの背中追っちゃって。恋してるみたい。」

「違っ…!だから、俺には好きな奴がいるんだって。何度言ったら分かるんだ…。」

なんだか怒りを通して呆れ返る。最近、ちょっと女性を見ただけで、すぐにこの質問をされる。

まあ、その理由は大方明らかだが。

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