《MUMEI》
紅葉の街で
少女は騎士に憧れた

少女は騎士の夢を見た

少女は騎士になりたくて

純白の騎士の夢を見た

ある日少女は騎士を見た

街の正門で騎士を見た

紅い花がよく似合う

騎士を少女は嫌悪した

夢はまさに夢だった

◆◇◆◇◆◇◆◇

「暇ね」

「そだね〜」

私はテーブル1つをまるまる占領し、その上に突っ伏していた。
本来客が使うべき物なのだが今は気にしなくてもいいだろう。

なぜなら閑古鳥が大コーラスを奏でているからだ。
1人も客なんていやしない。
私がふてくされているところに水色の少女が近づいてくる。

「ねぇ、クッキー食べない?」

「売りものでしょ?」

「むー」

ふわふわした水色の服を着た少女は分かりやすく頬を膨らませた。
彼女は子どもっぽいうなり声をあげながら私の前の椅子に座る。
勢いよく座ったせいで後ろに倒れそうになりながら。

「本当にあんたは私と同い年?」

「うん、17」

腕を鳥のようにばたつかせなんとか倒れずにすんだ少女がにっと笑う。
彼女は実年齢より若く見える。
そう、17からさらに若く見られる、つまり子どもっぽく見えるのだ。
彼女の名前はフロミア・ルチル。ミドルネームは知らない。
この喫茶店『幸運を運ぶ鳥』を経営している私の友人だ。
この年齢で自分の店を持っているということは、親が金持ちか店持ちの親がポックリいったかのどちらか。

しかし、フロミアは底抜けに明るいのでどこかのボンボンだろうと私の中では確定している。

そして、私、ジニア・アルアティス・ブライトはこの彼女の店兼家に居候しているためそんなデリカシーのないことは言えない。
だから本当に予想でしかないのだが。

「ジニア、どうしたの〜遠いところ見てるよ」

ぼーっと思考を巡らせていたところ突然フロミアが頬を突っついてきた。
ほら、こういうことをする時のこいつの顔は特に子どもっぽい。

私は体を起こして椅子に座り直した。

「こうも暇だとつい、ね」

「もー私という話し相手がいながら何してるの」

フロミアはにやにやしながら言う。

「色々1人で考え込むのは昔からの癖よ、なかなか直らないと思うから気長に待ちなさい」

「はいはい」

私たちはそのまま客が来るのをだらだらと待ったが、誰も来ないまま閉店時間になった。

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