《MUMEI》

ちなみに閉店時間は3時である。
多分業界中でもこの時間帯での閉店は激早だろう。
理由はかなり前の夜に酔っぱらいが来て大変なことになったからだ。

それで現在私やフロミアの私的な客人以外は朝と昼しかこの店を利用できない。
正直、そんな営業時間で儲かるのか、という疑問があるのだが、いままでフロミアから赤字という単語を聞いたことがない。

まあ、私の知り合いが時々押し掛けて来るからだが。
・・・残念なことにフロミアはそいつらを私の私的な客人と捉えている。別に追っ払ってくれてもまったく問題ないのだが。
毎回そう言う度に『このツンデレめ〜このこの〜』とフロミアがからかってくるのでもう滅多に言わないが。

私は外に出て店の扉にかかる看板を裏返し『closed』の面を上にした。
からん、と看板は乾いた木の音を鳴らしながらぶらぶらと揺れる。
さて、今日の仕事はこれで終わり、と。
私は大きくのびをした。
今日はずっと晴れ、と言わんばかりに太陽が照っている。
こういうのを小春日和っていうわけね。
目を細めて雲1つない空を見上げた。
空の水色でフロミアを連想してしまう。

いい天気ね。
さて、これから自由時間。何しようかしら。
・・・小考中・・・

・・・とりあえず散歩にしよう。

特に行きたいところもなかったので結局いつも通りの散歩になった。昨日は雨だったというのと、散歩は嫌いではないということで不満はない。

そうと決まればいったん店の中に入り、私の部屋に戻る。
整頓された部屋だからすぐにほしいものが見つかる。
まあ、物が少ないから散らかっていても問題ないのだが。
ばっ、と勢いよくコートを羽織る。
今日は寒くなりそうだから薄着だと不審がられるだろう。
この時期は日が暮れてくると極端に冷えるし。

ま、そこまで飽きずに散歩してるか、というと疑問だけど念のためにね。

コートを羽織った後はいつも外出の時にきまって持っていく鞄を肩にかけた。
薄い華奢な鞄だが、私は必要以上に物を詰め込むタイプではない。
それひとつだけだと頼りなくない?と言われそうな鞄だが、私独自にして専用の収納術があるため不自由はしていない。

「よし、準備できた」
私が鞄を肩にかけ、部屋を出てみると、すでにフロミアはどこかにいった後だった。
昨日、今話題で有名なアイドルがこの街にやってくる!と興奮しながら言っていたから原因はそれだろう。
フロミアは『気がついたらいない』という状況を作るのが上手い。非常に上手い。
一回フロミアがどんな所に行っているかきになって尾行した事があったのだが、その時はものの数分で撒かれてしまった。
それくらい足取りがつかめない。・・・ついでに迷子になるのも上手い。
だから私はフロミアがいなくなっても基本的に気にしないことにしている。

しかし、鍵もかけずに家を出るのはいささか無用心だと思うのだが。

まあ、私がいたから問題ないんだけど。

はあ、でもフロミアが何も言わずにどこかに行ったってことは私も適当にどこかに行っていいということで・・・

でも、とりあえず家を出るからにはしっかり鍵は閉めておかないと。

私だけでもしっかりしていないとなぁ〜
◆◇◆◇◆◇

私は気に入っているコートの襟を直して街を歩く。

鍵がかかりにくく手間取ったから家を出発するまで時間がかかった。
扉を溶接してやろうかと思い始めたところで閉まったから危ないところだった。

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