《MUMEI》
嫌な女
「……誰だ?」
 ユウゴは目を凝らして相手の顔を見た。

その声は聞いたことがあるようで、ないような。
というのも、女の声がひどくしわがれていたからだ。
 影はユラリ、ユラリと位置を変え、やがて月の光がその姿を照らした。

 そこに立っていたのはスラリと背の高い女。
その左肩は極端に下がり、そこから伸びる腕は上から手先まで血にまみれている。
よく見ると右腕も二の腕から下が血のせいで鈍く光っている。
肩まで垂らした茶色い髪はひどく乱れ、その整った顔は醜く歪んでいた。
しかし、そこに浮かぶ二つの目だけはギラギラと輝き、一層不気味な雰囲気を醸し出していた。

その姿を見た途端、ユウゴとユキナは思わず息を飲んだ。
「……お、まえ」
「生きてたの?」
ユウゴの言葉にユキナが続く。
「ええ。おかげさまでね」
女はそう言うと口の端だけを上げ、恐ろしく不気味な笑みをその顔に浮かべた。

「誰?知り合い?」
サトシは油断なく相手を見据えたまま聞いた。
「ミサっていう、ユウゴの友達を裏切った嫌な女よ」
ユキナが苦々しく表情を歪めた。

それを聞いたミサは低く笑い声をあげ、そして一瞬の間を置いてギッとユキナを睨んだ。
「どっちが嫌な女かしら?私をこんな目に遭わせておいて」
凄まじい形相を浮かべたその顔とは異なり、ひどく冷静な口調で彼女は言った。
「わ、わたしが撃ったわけじゃないでしょ」
ユキナは震える声で言いながらユウゴを横目で見た。
ミサの注意をユウゴに移そうとしているのがわかる。

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