《MUMEI》

ハルの声が、冷涼を帯びた空気を遮った。


「…早く、行こう?カナ、また来るよ。」


ハルは俺の手を引いて、素早く歩き出そうとした。


「あぁ…行くんだけど。…カナ、また来るよ。用が無い日でも、アポ無しで来るからな。」


ニカッとカナに笑ってから、前を向く。



「ハル、どうしたんだよ。そんな急ぐクエストじゃ無いだろ?」


「……うん。でもだって…。」


「?」


らしくもなく、ハルが言葉に詰まっている。俯きながら、歩いていると、その速度は目に見えて遅くなる。やがて、市街地の道端で歩は止まった。

「カケル、誰でも良い顔するんだもん。」

「だって友達だろ?」

「そうだけど…。」


しゅんとするハルを見て、思わず俺は笑ってしまった。


「ちょっと、カケル?」


「いや、なんかハルが可愛くってさ。」

「ちょっ…それどういう意味よ。」


「そのままだよ。大丈夫。俺のパートナーはハル以外有り得ないからさ。」


「わ、私だって、言っちゃ悪いけど、ギルドのみんなよりカケルが大切よ。」

「大切…だよな。」


曖昧な返事をしてしまい、はっと我に帰る。


「超特急で行こうぜ。ベルゼフ城攻略をさっさと終わらせて、あそこに寄ってログアウトってのはどうだ?」

今度は俺が手を引く形になった。ハルは柔らかく微笑んだ。

そして、市街地に流れる人混みの雑音に負けない位に声を張り、歩を出した。


「賛成!」

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