《MUMEI》
5.BARK AT THE MOON !!
「一年前の事だ!赤い箒星−ほうきぼし−の輝きが一週間もの間、夜空を覆っていた時の事は、ここにいる誰もが憶えているであろう。
その星の声が我に告げたのだ。
この列島には今、八百万の神の力が跋扈−ばっこ―している。
このまま放置しておけば、神の力は互いに互いを喰らいあい、列島に混沌をもたらすであろう、と。
それを避けるには太陽神の力の下に、八百万の神々を統率せねばならぬ、と。
箒星は我にヤマタイ族では女にしか与えられない『異能』の力をも、与えてくれた。
それは未来を見透す力!
そして太陽神の力を宿す器−うつわ−
(人間)を、知る事の出来る能力だ!
その力は告げた!ここに在らせられる
カド族の長−おさ−!ジンム様こそが、太陽神の化身であると!!」
「妖術師めが!若い王をたぶらかしおったか?!」
虎ノ介は傍らのオジジの、吐き捨てるような声を聞いた。
「奴の放つ『気』を感じるか?」
オジジの問いに、黙って虎ノ介はうなづく。
「今度の戦、大元の手綱を握っておるのは奴であろう。
ジンムは見栄えのする飾り、言わば傀儡に過ぎまい」
ヤマタイ族のヨモツ。
虎ノ介も、その名前は聞いている。
最近西の氏族連合(大和王権)の中心であるカド族に、新しい長が誕生して以来、その傍らにつねに影のように寄り添う宰相−さいしょう−が居ると・・・・

ヨモツと名乗るその者は、ヤマタイ族では女性のみに授けられると言われる異能の力を、男でありながら授けられ、すでに数々の奇跡をおこなったと聞いている。
この戦の黒幕がヨモツであると言う
オジジの見立ては、恐らく真実であろう。
「では―奴の首をとろう・・・」
虎ノ介は淡淡−たんたん−と、それでいて断固たる決意を秘めて言った。
例え引き換えに、この命が砕け散ろうとも。
エンキの末裔のオオクニヌシ様が築いた 千年の楽園を、ここで終わらせてたまるものか!

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