《MUMEI》
1 魔法少女誕生
一一一5月16日

 手頃な子を見つけた。
 今回は、あの子に決めた。


一一一5月17日

 これで、また君に会えるよ。




一一一……チュンチュン…

遠くで聞こえた、雀の声。
何だか軽い既視感を覚えつつ、ゆっくり瞼を開く。

そこにはいつも通りの天井が視界に広がっている。
ゆっくり首を曲げ、手探りで携帯を探す。
硬い感触が伝わって、物体を掴むとストラップが引きずられて後に続いた。

祈るように携帯を開く一一一昨日の朝とまるっきり一緒だ一一そこに記された日付は、

『 5月18日(火) 6:49 』

……夢、じゃない。
昨日の出来事は、夢なんかじゃない。

背けられない現実に、ため息が自然と漏れた。

自然と濡れた目元を拭って上半身を起こす。
薄い掛け布団がずり下がり、安物のベッドが軋む。


「おはよう」

目の前にすーっとなめらかに出てきた魚に、またもやため息がでた。

昨日。

あの後、無理やり衣装を脱ごうとしたのだが、まるで肌に張り付いているかのように離れず。

騒ぎに騒いで、元に戻せと抗議したのだが霊は「もうどうにも出来ない」との一点張り。

こうなれば物理的に、と思い「捌くぞ」と包丁片手に脅してみたが泣きそうな顔で無理だと告げた。

そんなこんなで真っ白に燃え尽きて途方に暮れていると、



「元に戻る方法は一つだけある」
ぽつりと、魚は言った。

その言葉に食いつくように飛び跳ね、教えてとぶんぶん魚を揺さぶると途切れながらもこう言った。


今、世界が不安定っていっただろう?
本当の意味は、この世界の生命を保てさせている神様が不安定なんだ。

理由は、その神様の体、生命を維持している12のリングが世界中に散らばってしまっている。
そのリングがないと体を保つことも力を出して世界を保つことも出来なくなるんだ。

今神様は、昏睡していて残り僅かな生命で世界を繋げているんだ。
しかしその力は、もう殆ど無いに等しい。
いつこの世界が消滅するかも分からない状態なんだ。

だから、その状況を阻止すべく僕達がこの世界に放たれた。
分け与えられた力で、人間を魔法少女へ転生させ、その驚異的な能力でリングを集めさせる。
それが僕の役目であり、君の役目。

そして神様は12個のリングを集めた魔法少女に、復活させた礼に一つだけ願いを叶えるさせる。

だからその願いを叶える為には、君が今持っている魔法少女の力で、12のリングを集めるんだ一一一

その力を、手放したいのなら。


霊は、その事を1時間近くかけて説明した。

馬鹿げた話だ。

力を手放したいから、この力を使ってリングを集める?
矛盾した話だ。冗談にも程がある。
そんなこと、やるはずがない。

そんな私の考えを見透かすように、霊は言った。


「君に否定する権利はない」、と。



確かに、そうだった。

第一、この衣装は脱げないし、何よりも自分が一番実感していた。
通常の人間なら出せないような、驚異的な力が自分に宿っていること。

少し軽くジャンプしただけで、天井に頭突きで穴を空けそうになったり、ばん!!とテーブルを叩いたら真っ二つに割れたりetc…


こんなんじゃ日常生活もままならない。
ちょっとした動作で色々な物を破壊しかねない。


昨日は冗談じゃない。そんな事に私を巻き込まないでと布団に潜ってしまった。
その後もよく眠れず、考えては考えた。


もし、私がその役目を放棄したとすると、普通に生活を送れるのか?

もし、ふとした衝撃で誰かを傷つけてしまわないか?


とめどなく溢れ出る、思考。

明日、起きたらこれが夢なんじゃないか。
そう思ったりもした。

どうすればいいの?


助けを求めても誰も助けてくれない。
昔からそうだ。泣いても誰一人私の涙を拭ってはくれなかった。

だったら。
だったら?

自分で、その涙を拭うしかない。
涙を流さければいい。




ならば、自分がやるしかない。



「霊」

長い長い思考の末、現実に帰還した私は覚悟をした。


「私、魔法少女やるよ」


その言葉を聞いて、魚は笑った。

「魔法少女、奈子。誕生だね」

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