《MUMEI》

久々の樹海ダンジョンに、心が無性に踊る。

魔物出現区域の荒野で、俺と同じ速度で駆ける。まだレベルは俺より下なのに、大したものだ。

「…そんな楽しみ?攻略。」

「面倒臭いけど?」


そう。攻略は非常に面倒臭いのだ。


ベルゼフ城の様に、名称を授けられた場所や空間は、必須アイテム:ミリオンマップにその地形を記す事が出来る。ここで出てくるのが攻略だ。

ミリオンマップに記すにはその地形全てを視認しなければならないのだ。簡単に言えば、既にクリア済みのクエストをもう一度やるような物で、やりたがるプレイヤーは見たことがない。


だから俺が楽しそうにしている事で、ハルは訝しげな眼を向けているのだろう。

「久々の樹海だろ?俺、好きなんだよな。」

「えぇ、私は嫌い。だって…。」


一気にハルの顔色が悪くなる。気も俯いているからか、纏うオーラが寒色染みてきた。

「虫が大勢襲って来るからだろ。」

「………ぅぷ。」

想像しただけで気持ち悪い、と目で語っている。相当に嫌いな様だ。まぁ、俺が樹海を好きな理由はまんまこれだが。

「ちょっとは解るけど。妙にリアルだしな。」

「でしょ!?…うっ…気分悪い……。」

「……もういいから喋んな…。」

「…うん、ありがとうカケル……。」


少しからかおうと思っただけだったが、なんだか本当に嘔吐してしまいそうで、見ていて気分の良い姿ではなかった。



この時、どうして俺は気付かなかったのだろう。



`気分が悪い´



ミリオンヘイムオンラインを一年間もやってきた俺なら理解出来たはずなのに。



この感情は、現実でしか起こり得ないということを。

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