《MUMEI》
水溶液の正体
「な…なんだ…って…」

男はその場にへたり込んでしまった。

…人が死んでいても、警察はうごかないのか?
本の世界では何が起こっている?

クエスチョンマークが頭の上で跳ねる。
だが、クイズ番組を見ている時のような、気楽な気分ではない。

杏のことも、もしかしたらこのゲームの主催側が行ったことなのかもしれない。
…そうとも言い切れないが。


秘書の顔は、仮面で隠されている。
その仮面を今すぐ取ってやりたい。

このゲーム、俺は生き続けられるだろうか。


「話を戻しましょうか…。まぁ、神だの世界だの言ってもわからないでしょう。
 簡単にいいます。このゲームは、スキルを使って相手を倒していくRPG。
 今からそのスキルの事をお話します。」

秘書はポケットから小瓶を取り出した。


「!!」


そう。
この小瓶。
母と父から届いた、あの小瓶にそっくり。
…中身の液体の色は違うけれど。

「これは、スキルドリンクといいます。
 服用すると、名前の通りスキルを習得することができます。
 ちなみに僕たちはすでに服用済みで、スキルも使えます」

そういうと、小瓶を持ってない方の手から、つららが垂れ下がった。

「まるで漫画だ。あり得ない」



だが、考えても見ろ。

あの時、重傷を治したあの青白い光。

もしかして、この能力を使っていたのかもしれない。

「一人ひとりの強さは毎週ランキングとして発表されます。
 通常、スキルは一人ひとつまでですが、ランキングの上位になった方は、
 もうひとつ習得できるようになります」


左の人から小瓶が回ってきた。
中には緑の液体が入っている。

梓は水色の液体の入った瓶をもらったようだった。

「さぁ、お飲み下さい」


周りの人は少し躊躇しながらも、コルク栓をあけ、蛍光色の液体を口に流し込んでいく。
梓はその中でも真っ先に飲んだだろう。



…さて、

どちらの液体を飲むか。

自分としては、やはり、自分の親のくれた方をを飲むのが一番いいかと。

気づかれないように、さっと鞄の中で箱を開け、入れ替えた。

コルク栓を開け、『水溶液(オレンジジュース味)』を飲みほした。


「さぁ、自分のスキルを確認して見て下さい」

端末の自分の強さを見てみる。

先ほどのデータが書きかえられ、


スキル:ランクSS トランスペアント


「とらんすぺあんと…?」




「スキルにはランクがあります。EからSSまで。SSはとても貴重なスキルです。
 でも、ランクが低いほど使い道がすぐ思いつきそうな能力が多いかもですが…」


ちょっとまった。


これ、SSだよね?



「わっSSだ――――!!!!」

「なッ」

横から見ていた梓が叫んだ。
周りからじろじろ見られる。

…こういうの、苦手なんですけどー。
梓さんやめてー。

「トランスペアント。透明っていう意味だね」

「俺は透明人間になれるのか」

まぁ…RPGにはめっったに登場しないスキルですけど;
どう使えと;


「梓のは?」



スキル:ランクB テンパラチャー



「テンパラチャー…温度だって…。なんか使い道思いつかない?」

「…お湯を沸かす」

「あんたは私を電化製品にでもにしようとしてるのか」

「死にそうな人の体をあっためる」

「私は死にそうな人をさがす旅に出ないといけないのか」

「…」

「もういい。自分でRPGにありそうな使い道考える」



そう言って向こうへ行ってしまった。

「どうやったら透明になるんだ…?」

そうやって手に力を入れてみたりたたいたりしてみたが何も起こらなかった。

「できないじゃないかよ」

ボーっと手のひらを見つめる。


いまごろ杏はどうしているのだろうか。
死んでいるのか。
何処かで生きているのか。
本の世界に戻ったのか。

…そういえば、前あったチャイナドレスの、…そう、確か麗華さん。
見かけないな。どこ行ったんだろ。



「ギャッ!」



考え事をしている間に、袖から手が消えていた。

反対の手で袖のあたりを増えてみると、見えないなにかの感触があった。

透明になったのだ。


「…考え事をすると透明になるとか…?」



それはないか;

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