《MUMEI》

 「……」
翌日、陽も明けきらない早朝
眼を覚ましたらしい相手は時間を確認にと携帯を開く
AM 4:30
早すぎるその時間に、だが二度寝する気にはなれずゆるり身を起こせば
傍らで寝ていたらしい豊田が身じろぐ事をし
起こさないように気遣い、静かにベッドから降りた
喉がひどく乾いていて、水を飲もうと台所へ
向かう途中
居間のソファの上に数体をテディベアたちが並んで座っている事に気が付いた
「これ……」
それは初めて会った公園で豊田に見せたテディベア達で
血液やら泥やらで汚れてしまっているそれを、相手はだが抱きしめていた
「……大丈夫。多分、きっと」
それをまじまじと眺めた後、何か決意したかの様な声
一人拳を握っていると
「……何が、大丈夫なんだ?」
背後から、豊田がその身体を抱く
突然のそれに驚いたらしい相手が跳ねるように振り返り
その動きを遮る事なく豊田は口付けていた
「豊田さ……」
「何か言いたい事、あるんだろ?」
言ってみろ、と指先で唇をなどりそれを促してやる
「……と、思って」
「聞こえない」
小声過ぎる事を指摘してやれば
相手は徐にベッドから降りると、覚束ない足取りで歩き始め
部屋の隅に放置したままの父親からのプレゼントのクマを抱え上げていた
「……コレ、返しに行こうとおもって」
自分にはもう必要のないものだからと、豊田へと向いて直る相手
だがその眼には、やはり不安の色が僅かに残っているように豊田には見えた
そのまま何を言う事もせず抱き返してやれば
相手は素直にその胸に身を凭れさせる
「……一緒に、行ってくれますか?」
求められてしまえば否とは言えない
依存されている事が寧ろ心地いいと思えてしまう程
いつの間にか、目の前の少年に執着してしまっている事に気が付いた
「……分かった。付いて行ってやる」
短く返してやりながら
豊田は相手の身体を抱き返し、何度も髪を掻き乱すように撫でていたのだった……

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