《MUMEI》

吐き気も治まり、少し緩くしていた速度を徐々に戻して行く。

「もう大丈夫。だいぶ楽になったよ。」

「そっか。良かった。」


ハルが元の顔色や表情を出し始めたので、俺は安心し、もう既に目先に見えてきた樹海へと急いだ。

「今日のボス、何だっけ?」

「確か…バトリュガリガかな?蝶みたいなの。属性無し、武器有り。」

「おっいいじゃん。」

「いいじゃんって…一回闘ってるんだから、覚えときなよ……。」

いつもと同じ、呆れた口調。体調は良くなった様だ。

と言ってる間にも到着するのが俺達二人だ。余裕な時は、戦闘中だって構わずに喋る。それは手を抜いている訳ではなく、自分で勝利を確定出来た時に限る。


「っと…着いたな。よし、行くか。」

「……うん。」


樹海はやはり嫌いの様で、両手を顔付近に寄せ、しかめっ面をしだした。が、吹っ切れたのか腕を大きく振り、ズンズンと俺の前を行く。

「あっおい、離れんなよ。」

続いて俺も樹海に足を踏み入れる。中は薄暗く、遠くで魔物の呻き声がこだましている。それでも構わずに、しかし静かに歩行する。


「うぅ〜気持ち悪いなぁ…。」

「大丈夫だって。」


俺は何気無く言ったんだ。


「ハルには指一本触れさせない。」


するとハルは一瞬で顔が真っ赤になった。


「カケルが居れば安心ね。」


そう言って、とびきりの笑顔を俺に見せた。


俺は、この言葉に責任を持ちたかった。



「ああ。」

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