《MUMEI》

「二郎を泣かせてばっかりだ……。幸せになって欲しいのに。二郎の笑った顔が見たいのに苦しめてばかりいる。」
七生は手に更に力を込めた。痛いのは俺なのに、七生の方が顔を歪ませている。
黒目が水面のように揺れていた。
……………………泣く。



両手は使えない、七生の頬を伝う雫を舌で拭う。

舌先に塩分が広がった。





「……最悪だ。
こんな大の男が二人でベッドの角ですることじゃない……。」
でも、現象として起こっている。

七生に伝えなければ。

「七生、七生、よく聞いて。
俺はね、寂しかった。
普段の生活に戻って、かえでと付き合えって言われて、富岡と七生が歩いているのを見て、


最悪だ、自分で望んだ生活なのに唇が触れた瞬間が忘れられないなんて。
富岡に迫られたとき、キスされそうになって思い浮かんだのは水瀬じゃなくて、
悔しいけど



お前だった。

七生だったんだよ。




気持ち悪いって殴り掛からなきゃいけない筈なのに、七生に掴まれたら抵抗出来ずにいてしまう。鼓動が、鳴り止まない。」

自分では止められないんだ、七生、お前ならどうする?

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫