《MUMEI》 1 動き出す歯車「ふーっ。ゆかりちゃん一緒に帰ろー」 HR終了と同時にぐーと背伸びをする。後ろの男子に文句を言われたがごめんと背中を反りながら手を合わせた。 ちなみにゆかりちゃんは、その男子の後ろ。 つまり私の2つ後ろという事になる。 「あ……ごめん奈子。今日も…用事があって…」 「え、…うん分かった」 「ごめんね」 それだけ素早く言うと、さっさと席を立ち、黒髪を激しく左右に揺らしながら早足で教室を後にした。 「……」 その背中を見えなくなるまで目を追っていた。 …何だか最近のゆかりちゃん、 「なんか最近の藍科さん変だよな」 ぽつりと、男子が呟いた。 自分と考えていた事がまるっきり一緒で、ちょっとギクリとしたが。 「ま、まぁゆかりちゃんも忙しいんじゃない?」 「俺達には理解不能なお嬢様の気苦労てモンがあるんだなぁ」 「アンタと一緒にしないでよ」 鞄を持ち上げ、男子の顔面にぶつけてやる。 ぶぎぇ、と変な音が聞こえたような気がした。おそらく幻聴だね。 スタスタを歩き始めると背後から抗議の声が聞こえたような気がした。幻聴幻聴。 確かに、最近のゆかりちゃんはらしくない。 いつも微笑みを絶やさないゆかりちゃんが、切羽詰まったような顔ばかりしている。 何かあったかと聞いても何も教えてくれないし、大丈夫と作り笑いを見せた。 ……困ってるなら相談してくれればいいのに。 私は、ゆかりちゃんの親友だと思ってるから頼ってくれないのは凄く心配になる。 まぁ、私じゃ頼りないかもしれないけど。 「……ふう。息苦しかった…」 門を出て、人通りが無くなって来た頃スクバのポケットから霊が顔を出す。 いたんだっけと思い、バックを持ち上げてやるとしゅるんと飛び出してくる。 「酷いよ奈子。さっきバックをどこかにぶつけただろう」 「そうだけど?」 「…あっさり認めないで欲しいなぁ。おかげで鱗が取れたじゃないか」 「そりゃよかったねー」 棒読みで返すと、霊は口をへの字にして睨んできた。しかし全く怖くない。 今朝のお返しだバーローと思いどこ吹く風で口笛を吹いてやる。 「……まぁこの件は保留にしておく。それで聞きたいんだが…あのゆかりという少女は君の友人関係にあたるのかな」 「へ?」 急に話が飛んできょとんとする。 「そうだけど…どうしたの?」 「いや、別に聞いてみただけだ深い理由はないよ」 その言葉に、ぴこーんと頭上に豆電球が点灯した。 「はっは〜ん…もしや霊、ゆかりちゃんに一目惚れ?」 ニヤニヤしながら、このぉ〜と肘でつつこうとすると、またもや逃げるように加速し始めた。 え…!?もしや図星? 意外。霊って清楚な子が好みなのか。 これは豊作だ。いつもからかわれてばかりだが、この弱点を突けばからかえるかも。 にふふ、と笑いがこぼれちょっとした悪戯心が芽生えた。 すうっ、と息を吸い込み遠ざかっていく霊に、 「ゆかりちゃんの連絡先教えてよっかー!?」 大声で叫んでやった。 沢山の人々が行き交う、交差点。 人々の流れが集約し熱気が籠もる空気は肌を焼き焦がす。 ドス、と左肩に鈍い衝撃。 視線を向けるとサラリーマンが迷惑そうに顔を歪ませ立ち去っていった。 迷惑なのはどっちだ。心の中で軽く舌打ちする。 辺りを見回し、狭く薄汚い路地裏が目に入る。 仕方なくそこに身を潜めようと、人を押しのける。中には倒れた奴もいたがそんなの知るよしもない。 「…………羅葉」 口内で揉むようにぼそりと囁く。 背後の喧騒とかぶさって殆ど消え入るようだったが、鞄にいる人物に聞かせるには十分だ。 すると同じように微かな囁きが返ってくる。 「……何?無闇に私の名前を呼ばないで頂戴」 透明感がある可憐な声とは裏腹に、冷たい罵声が飛ぶ。 バレない程度の舌打ちをして囁く。 「…標的は?」 「貴方の現在地座標から約北東に300ね」 300とはmではなくkmだ。 その数字を聞いて、苛立つような呆れるような憎悪が渦巻く。 「…分かったわ。今日中に片付ける」 だって私には、明日約束があるのだから。 前へ |次へ |
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