《MUMEI》

どうすればいいのか解らなくて、樹は携帯電話を開けた。履歴には自宅の後に知らない番号が入っている。


アラタの番号だ。




アラタなら、自分の事をなじってくれるだろう。蔑みの目で蹴ってくれるだろう。死ぬ瞬間を見てくれるだろう。

聞きたい。
声が…………





『お前が思ってる程俺は暇じゃない。五分だ。』
凜とした声が電波を通じて聞こえた。



「猫を殺してしまうことは異常ですか?」



『質問ばかりだな。どうしても殺したいと思ったなら仕方がない。』



「俺…………解らないんです。ぼんやりして、気が付いたら死んでいて。」



『馬鹿だな。そして弱くて、愚かだ。』


アラタの声が染みてゆく。変わらずに吐き捨てる毒。耐性がついたようで体が酔ったように温まる。



「………はい」


もっと、欲しい。



『頭悪いね、犬だものね、しょうがないか。小さいものを殺したがるのは父親の血筋だから?それか



……アヅサじゃないの…………?
アヅサは殺したがった。』

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