《MUMEI》

「文さんはさ。どこかに行ってしまいたい、何て思うことある?」
「あるよ」
「あるの?」
「中之島図書館。一回、行ってみたいんだ」
 澄ました顔して、この女。
 建築様式が素敵なんだよね、などとまだ言っている。
 二杯目の紅茶を注いでくれて、彼女は軽い足取りで自分の席へと戻っていく。
「ここ来る前、『夜間飛行』に寄って来たんでしょう?あそこの建物も年代物でいいよね。三階建ては同じだけど、古いだけのコンクリむき出しじゃなくて、煉瓦造りなの」
 途中で振り向いて、一気に、あや香が続ける。
 どうやら格好の話題を提供してしまったようだ。
 放課後、携帯端末に所員の博田隆也から連絡があったとき、光基は学校校舎の四階で釣り糸を垂らしていた。
 高校校舎はH型をしており、四階の通常教室棟と専門教室棟を繋ぐ渡り通路を専門側に渡り切ると、コンクリで囲われた人工の池がある。
 生物部辺りが飼育しているのかどうか、水草と小魚数匹が共生しているのだ。
「メール来たんじゃね」
 すぐ脇でコンクリに背を預けて、携帯端末へ何か打ち込んでいた水杜卓が、顔を上げないまま教えてくれる。
 光基の同級生で、部活仲間である。
 部員はもう一人いるのだが、現在、人数不足のため、部の活動は開店休業状態となっていた。
 四月、やって来るはずの新入生に期待するしかあるまい。

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