《MUMEI》

「……アイ!」

「間違い…無いd…まちg…い……。」

アイは壊れたように同じ言葉を繰り返し、荒いノイズと共に見えなくなった。消えた訳ではないだろう。粒子化していないからだ。…きっと、何処かで生きているはず。


「どうなってんだ……?」


アイは俺がオンライン中の時、姿を眩ます事はあっても、報告は確かであったし、俺もそれを認めた上で、だ。

だが、これは…。

明らかに不確定要素の多い消滅の仕方だ。最も安定していなければならないサーバー側の者が、消える事など有り得るのだろうか。いや、はっきり言ってそれは無いだろう。

歩けば砂の擦れる音が聞こえ、真の恐怖を感じさせ、街として機能する世界を造り上げた、言わば才能を、持った奴が、こんな凡ミスをかます訳が無い。

考えられる可能性は、俺一人で思い付く限り、二つ。

計画的な犯行か、何者か――…何人かの集団にジャックされてしまったか。

どちらにしても犯罪性は高いが、後者は可能性が低いと言える。


これは俺の独断だが、このミリオンヘイムオンラインという素晴らしき世界を作った集団が、天才ごときにジャックされてほしくない。

「くっそ…あの様子じゃ、二階ってとこも怪しいな……。」

間違い無いですしか言えなかったとしたら、ボスは二階にはいない。そしてこのバグは――…。


「サーバー側の仕業って事か。」


そう理解した所で、脳内にベルゼフ城の地図をなるべく鮮明に描く。直ぐ様踵を翻す。確か降りる階段は右に曲がった所にあった筈。

速度をマックスにして廊下を駆ける。

が、しかし。城内に魔物が全く居ない訳では無い。


「キィィ!」

「ギュルァァ!」


二体の魔物が俺に向かって走ってくる。両方共に雑魚で、腰元までの高さ、蟻をモチーフにしたと思われる形状。


「邪魔だっ………!」


右手で刀を抜き、相変わらずの切れ味で、一振り、二振り。一刀両断ですれ違い様に片付ける。


「ハル………!」


先の見えない暗い廊下は、何処までも続いている様な気がした。

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