《MUMEI》 アラハバキ族を構成する軍勢・・・・、 虎ノ介を含む武装した先陣隊数百の後ろには、これもまた同数ほどの子供や老人(肉体的に障害を持つため、武術の代わりに念を磨いた者を含む)で構成される詠唱隊、その後ろには無言で祈るように両手を合わせてうつ向く女性陣。 さらにその後ろでは、これは何の目的があるのか何かの出番でも待つかのように、女性陣の中から枝分かれした者達が片膝をついて頭−こうべ−を垂れている。 頭−こうべ−を垂れている女性陣は、一見して見目麗しい者が選ばれているようにも見え、服装もおよそ戦場に望むにはふさわしからぬ、薄い絹の衣のようなものを纏−まと−っていた。 しかも光の加減では裸体が透けて見えるような、悩ましい扇情的なものだ。 そんな彼女らは、他の者達よりいちメートルほど高い、テラス状になった平らな岩の上にうずくまっていたが、それに 背後から覆い被さるように垂直な崖がそびえ立っている。 崖は機械的なもので人工的に削られでもしたかのように、磨かれたように滑らかで平らな岩壁だ。 そしてこの時代では驚くべき事に、現代のビルなら五六階分の高さはあるだろう、数十メートルの巨大な青銅の扉がその崖の表面に埋め込まれている。 この扉の中心辺りには、数メートルの大きさの五芒星のマークが刻まれていた。 しかしこのような巨大な扉を、どうゆう方法で開ける事が出来ると言うのだろうか? ヨモツの視線は先程からそちらの方向に向けられている。 視線の先・・・・青銅の扉の前、つまりテラス状に高い岩の上で、一人だけ佇む者がいた。 「その要求、受け入れる事は出来ぬ!」 ヨモツに答えたのは、その青銅の扉の前に佇む者であった。 「我らアラハバキは誰も支配せず、支配される事も無い。自然の定めに従い生き、死んでいくのみ。 服従は有り得ない!! お主達は数の優勢をもって我らを殺し尽くす事は出来るかも知れぬ。 だが最期まで、アラハバキの民の口から『降伏』の言葉を聞く事は出来ぬだろう。 そしてそう簡単に我らが滅びぬ事も、す ぐに身を持って知る事となる。 なぜなら、アラハバキの民は女子供に至るまで、指一本動かせなくなるまで・・・・否、最期の命が燃え尽きるまで闘う事を辞めぬからだ! したがって、お主達も女子供の全てをも情け容赦なく殺す覚悟で来なければ、 例え十万の軍勢を差し向けようとも、 我らアラハバキを敗−やぶ−る事は出来ぬとゆう事を、心してかかって来るがよい!」 アラハバキで一番の長老(すでに百五十歳になる)コトシロヌシの言葉は、 虎ノ介も含めここに居るアラハバキの民の総意と言えた。 大和王権の軍勢がこのアラハバキの国に進軍する事は、すでに知れていた事だった。 二週間ほど前には長老の口からその事が告げられ、この地を残るも去るも民の 自由意思に委ねられた。 結果、三分の一の者は戦を望まず、この地を去る事を選択した。 それを非難する者もいなかった。 彼らには彼らの道があり、その道も決して平坦では無いと言う事を誰もが分かっていたからだ。 それを卑怯と罵るのは、良くも悪くも 現代人の感性であろう。 虎ノ介も含めた三分の二の民は、この地に残る道を選択した。 だから長老コトシロヌシの言葉は、この場にいるアラハバキの者全員を代表するものと言って、間違いなかった。 「愚か者めが!」 鼻から下だけが見えるフードの男の口がそのように動いたが、それが『念話』に乗せられる事は無かった。 前へ |次へ |
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