《MUMEI》
抜け殻
次の日…船が打ち上げられた現場に皆で向かった。

現場に着くまではみんな無言だった。

船を見るまでは。


叔母さんと愛人は泣いていた。



見覚えのある船。

台風の時に波にさらわれないように何重にも何重にもロープで固定した船。


朝仕事が終わって帰って来ると隅々までデッキブラシで掃除させられた船。


当日付きあっていた彼女に格好いい所を見せたくて、漁に出ない夜にデートをした船。



俺は見た瞬間

動けなくなっていた。



船の前の部分は浅瀬の岩にぶつかって大破していた。


船底は見れなかったが、多分船底も穴が開いて浸水していたんだろう。

かろうじて浅いから沈んでいない。


そんな感じで船は浅瀬にぶつかっては

『ゴン…ゴンッ』

と、音を立てていた。


遠くから見た時に感じていた違和感は近くに行けば行くほど理由がはっきりしていった。


何も無い。


マグロを捕る時に使っっていた電動式のリール。

自動操舵や衛星のレーダー。

船の中の魚郡探知器。

仮眠を取る所にあった布団。

金めの物はねこそぎ盗られていた。


父ちゃんが持っていたセカンドバック。


漁に使う道具全て。



何もなかった。

何も。



そこに浮いていたのは



浸水で使えなくなったエンジンだけを積んだ船。


大破して沈みかけている


思い出だけが残った




抜け殻だった。

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