《MUMEI》

数の上で圧倒的に有利な筈の大和王権側の兵士達が、コトシロヌシの気迫に圧されて怯−ひる−んだのに被さるように、

ピカーッ!!

と空が光りを放つ。
あっと言う間も無く、上空を黒雲が覆って雨滴が大地を打ち始めた。

すると一番後方でうずくまっていたアラハバキの乙女達がつと立ち上がり、
何とも優美な舞いを踊り始める。
聞く者の耳に、物悲しさを掻き立てる
歌声が雨の戦場に流れ始めた。


幾千 幾万の 凍りつく夜を越え
幾千 幾万の 星の焔−ほのう−に焼かれ
天−あま−の磐船 この地に辿り着きたり


我らはイザナギ(エンキ)の子ら
故郷−ふるさと−から遠きこの地の上で
千年の楽園を築かん


虎ノ介はクルと真横を向くと、鞘に納められたままの剣を、自分と向かい合うように横を向いた戦士とガチリと打合せる。
全身の筋肉を緊張させて左膝を直角に持ち上げると、ゆっくり大地へ下ろす。
大地に最小限の重量だけを、かけようとでもするかのように。
そのまま鞘を打合せた戦士とすれ違うように、二歩ほど摺り足で進むと、今度は右膝を同じように直角に持ち上げる。
そして自分の方向に向いた先程とは別の戦士と、再び鞘を打合せた。
ふたてに別れた先陣隊の列が、交差するように奇妙な様式美を見せながらすれ違っていく。
それは戦いに望むアラハバキの戦士の、
戦意高揚の舞踏だ。
詠唱を唱えるその後方の部隊が、歌声に合わせるように、左右に上体を揺らし始めた。
この頃になると、虎ノ介の意識は一種の
トランス状態に入り込んでいく。
現代人が使用する方法を忘却した眠れし 脳細胞が、人体の潜在的な戦闘力を引き出すために起動を始める。
まるでスタート前の、アクセルとブレーキの両方を踏み待機するレーシングカーのように、爆発的なエネルギーをため込んでいく。
それは見る者に、ブレーキペダルが解放された瞬間の、凄まじいエネルギーの爆発を予感させた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫