《MUMEI》

「カケル、まだ二階にいるかな…。」


無理目な願いをあわよくばという形で自信無さ気に口にする。実は、当然の様に二人は二階へ飛んだが、ボスが居るのは地下三階。

広がる無邪気な茂みも終わりを向かえ、切れ目が見えてきた。

そして、ベルゼフ城の正門と呼ぶべき広間も見えてきた。


「っと。」


軽く茂みを飛び越え、正門前に着地する。当然の流れで、扉に手を掛けた。が、そこで動きを止めた。

「あ、そうだ!」

突然に顔をはっと上げ、扉から手を離す。思い出したのだ。抜け道を。


「裏の井戸から地下三階まで行けるんだった。良かった、思い出して。」

そのまま全力で城の外壁沿いに進む。本気で疾走するとすぐに井戸の入り口が視界に入った。

近付くと風の抜ける音がする。奥が暗く、あまり得意な部類の道では無いが、カケルにああ言われたら先に到着していたいというのが人の心と言うものだ。


ザ……ザザ…ザ…


不意に、耳元で不愉快なノイズ音がした。

「……?」

咄嗟に首元に手を這わせる。異常が無いのが逆に怖い。


周囲を見渡すが、やはり変化は無い。


「まあ、いいか。」


そんな軽い気持ちで井戸の淵へ手を置き、多少力を込めて地を蹴る。


暗闇に目が慣れるには、どの位時間がかかるだろうか。そんなことを考えながら、降下していく先を必死に見据えた。

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