《MUMEI》
私と彼
「おはよう。」
ぶっきらぼうな彼からの
普通の挨拶にも
胸が高鳴る。
「お、おはよう!」
かみかみの私に
彼は真顔で、アドバイス。
「落ち着きなよ。」
ごめんなさい。と謝るが
気づいてもらえず。
いや、気づいてるけど
無視されたのかな?
なんて1人で思考をはたらかす。
彼の席は、私の前。
大きな背中が私の視界をさえぎる。
サラサラとなびく茶の髪が
私の心を揺らす。
キレイだなぁ。
と。
振り返る彼は
怪訝そうな顔を私に向け
少し低い声で言う。
「何?」
「え?」
舌足らずな言葉は
馬鹿な私には、理解できず
固まる。
はぁ―・・・。
と。
ため息をつきながら
「視線。さっきから痛いんだけど?」
と、言われて
やっと理解した。
いつの間にか彼を見てたらしく
うざそうにされたので
顔を背けると
彼は何事もなかったように
前を向く。
ちょっとだけ寂しくなったけど
空を見ると
とてもキレイな青空で
思わずニヤケる。
高校3年の春。
最高学年としての自覚が
まるっきりない私は
相変わらず前の席の彼の背中を
見つめることしか出来なくて―・・・。
あまりガン見してると
また、うざそうな顔で見られるから
こっそり―・・・。
彼の名前はユウくん。
1年生の時から
同じクラスで、ずっと
席が近かった。
けど、ユウくんは
見た目がチャライので
あまり話した事がなかった。
そんな数少ない会話も全て
ユウくんからだった。
好きなくせして
臆病な私―・・・。
何だかじ自分―・・・。
キモいかも。
「ミサ、今日ヒマ?」
「は、はぁ。」
私に喋りかけているのに
まったくこっちを見そうにない
ユウくんの私に対する
扱いに、慣れてしまった私は
ドキドキしながら話しを聞く。
「じゃあ、ちょっと付き合って?」
「はい。」
!!!?
何て?
今、確か付き合ってって!!!!??
テンパる私を背中に感じたのか
くるり、私を見ると
思い出したかのように
真顔で一言。
「そう言う意味じゃない。」
わかっているよ?
いや、でもさ?
何か色々違う気がしないかな?
私たち、そもそも
そんなに仲良かったかな?
とりあえず落ち着こうと
深呼吸。
ハテナマークがかなり沢山
出てるユウくんに
こそっと聞く。
「何で、私なんですか?」
少し考える様子を見せて
ユウくんはやっぱり真顔で。
「暇そうだから。」
言い切りましたね。
私、一応バイトしてるんだけど―・・・。
何て思ったけど言えなく。
「プレゼント。迷ってて。」
嫌ならいいけど。
何て意地悪に言うから
意地でも行くことに決めた。

その後の授業は
集中できずに終わった。
そして、放課後。
ついにきた。
掃除当番の私には
掃除当番ではないユウくんの
監視下のもと、急いで掃除をする。
いつもよりかなり早く終わった
にもかかわらず、遅い。
と、不機嫌な声が刺さる。
ごめんなさい。
今日はこんなのばっかりだ。
「早く行こう。」
そう言うなり歩き出す。
長い脚の大きな歩幅は
容赦なく私をおいていく。
たまに思う時がある。
この人は、どこまで完璧なんだろうっと。
街を歩けば
色々なところからの視線が
気になりだす。
怖いな―・・・。
キョロキョロと周りを見ると
女の子たちが
ユウくんを見てこそこそと
話していた。
悪口―・・・。な訳ないか。
学校でもかなり人気がある
ユウくん。
皆見とれて当たり前。
私もそうだから。
そう考えると何だか
申し訳ない気持ちになって
小さくなって歩けば
「大丈夫?」
と、心配されるしまつ。

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