《MUMEI》

 「……いい加減、何か話したらどうだ?」
普段は騒音ばかりが溢れているアパートのロビー
だがこの時ばかりは異常なほどに静かだった
どうやら岡本の手回しなのかほかの住人達が大人しくしてくれているらしく
花宮は相手の男と向かい合ってソファに腰を下ろしている
互いに何か話せばいいものを
呆れながらその様を眺めながらも一応は客人を招き入れてヤル
どうぞごゆっくりと茶を置きその場を離れようとすると何故かその男からの視線を感じ
「……何か?」
その視線に居心地の悪さを覚えた前野がつい怪訝な表情浮かべて見せた
男はすぐさま視線を外すと意味不明な笑みを浮かべ花宮へと向いて直り
話というのは何なのかと切り出してくる
改まって話すとなるとやはり緊張するのか
花宮は見て分かり過ぎるほどにガチガチに固まってしまっていた
「あ、あの……私」
何とか声を絞り出すも震えに震え
だが何とか話す事を始める
「……わ、私、あなたが好きです!」
意を決しての告白
相手の男は瞬間虚を突かれたような顔をしていたがすぐに肩を揺らし
ゆるゆると首を横に振っていた
「……気持ちは嬉しいけど、ごめん」
断りの言の葉をはく相手に花宮はやはりと項垂れる
見ていて居た堪れなくなりそうな程の落ち込み様に
だが前野たちはその様を見守るばかりだ
「……私がこんな仕事してるから駄目なの?」
「そうじゃ、ないんだ。ただ……」
何故か男は口籠ると前野と村山の方を見やる
まじまじと眺め、そして立ち上がれば
二人へと量の腕を広げ飛び掛かってきたのだ
「――!?」
行き成り何をするつもりなのか
予測もしていなかったその行動に、前野だけではなく村山からも手が出ていた
ほぼ同時に男を殴る、鈍い音
低く呻くを上げたかと思えば男は床に倒れこむ
「……花宮。この馬鹿一体なんなんだ?」
殴る事に使用した拳をそのままに、花宮へと問う事をしてみれば
花宮も混乱しているようで酷い顔
つまりこの男はそういう趣味なのだと
瞬間、その場にいる全員が理解した
「……花宮さん。この人、やめといた方がいいと俺思うよ」
好いても多分うまくはいかないだろうから、との村山の言葉に
花宮は素直に頷くことし、徐に男の襟ぐりをつかむと引き摺って外へと放り出していた
「……男好きならソッチ系の店にでも行ってなさいよ!馬鹿ぁ!!」
様々な怒りが綯交ぜになり、響く声で怒鳴り散らす花宮
表にまでその声は聞こえたらしく、往来を行きかう人々が皆一瞬脚を止める
すっかり気が立ってしまっている花宮
だがこれ以上総づするわけにもいかず
前野と村山は2人がかりで花宮をアパート内へと引き戻した
「――もう最悪!!信じらんない!」
何とかソファへと座らせてやるが怒りは収まる様子はなく
傍にあったクッションを前野達へと投げつけ八つ当る
それを何とかかわしながら花宮が落ち着くの待ってやる
「……どうしようもねぇな」
一向に落ち着く気配はなく
仕方なしにコーヒーを淹れてやり、カップを差し出してやれば
少し落ち着いたのか、短く礼を言いカップを取っていた
「べ、別に悔しくなんてないし。いい男なんてほかに沢山いるし……」
強がりながら、だがその眼には涙が滲んでいる
本当に泣き出してしまったのは、直ぐ後
「……那智。コレどうするんだ?」
喚く様な声を上げながらなくそれに耳を覆ってしまいながら村山が問うてくる
こういう状況に陥ってしまった場合、取るべき手段は、一つしかない
「……ほっとけ。暫くしたら落ち着くだろ」
立ち直りが早いのだけが取り柄だろうから、と
前野は身を翻すとロビーを後に
戸を閉じても尚花宮の騒ぐ声は響き
放っておけと言いながらも、いい加減喧しいと溜息を吐けば
「……大丈夫。女は、強いから」
丁度学校から帰宅したらしい岡本が静かに二人の横へと立ち、そして呟く
行き成りのそれにやはり驚いてしまいながら
「……千秋。もう少し、子供っぽくしようね」
年齢の割に大人び過ぎていると村山が苦笑を浮かべてしまえば
岡本は相変わらずの表情薄で、考えておくと呟くばかりだった……

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