《MUMEI》

 受け取った時点で、博田ではなく春歌の荷物だったことは知れた。
「何で、受け取りが純喫茶の方だったの?」
「古本屋から急に休業しますって、連絡があってさ。下の純喫茶に預けるので取りに来てくれって」
 煉瓦造りの三階建物の古本屋は、キチキチ堂という。
 当然の光基の疑問に、春歌は、頭のタオルごと肩までの髪を悩ましげに掻き回している。
 ミニチュアダックスフンドのモンテスキューの捜索は、三週間前からであった。
「これから、あたし、古本屋に行ってみるけど。一緒に行く?」
「何か、進展した訳」
「目撃情報が複数」
 モンテスキューらしきミニチュアダックスフンドの姿は、市立松林高校や煉瓦造りの三階建物の周辺で見かけられていた。
 依頼人の飼い主によるモンテスキューの身体特徴に、お腹の十円玉ハゲが二つ。
 証言を元に、三階建物居住の者たちにも聞き込みを行っている。
 結果、古本屋キチキチ堂に的を絞ったのは、どういう理由なのか。
「あそこはね、出るんだって」
「出るって? 何が」
 出ると言えば色々あるだろうが、浮かんだのは季節外れの現象であった。
 光基は春歌に向け、両腕を両肩の高さと水平に突き出して、柳のように揺らす。
「ん〜、断言はできない。幽霊だったのか、宇宙人だったのか。それとも、登場人物だったのかどうか」
 意味がわからない。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫