《MUMEI》
人体実験で何か。
背中に羽根が生えたヤツを預かった。

『よぉ、コイツを暫く預かっとけ!』

組織の兄貴に無理矢理押し付けられた少年には羽根が生えていた。

兄貴は、闇のブローカーをしていて、なんでもお得意様のご要望で、天使の少年を用意したそうだ。
もちろん、本物な訳でなく人体実験で人工的に造り出した羽根(と言っても神経も血管もある)を背中に移植したそうだ。

パタパタと動くし、傷付けば血も流れるらしい。


『あ、ソイツ…喋れないし両手不自由だから』


帰り際にそう言った。なんでも、羽根に神経を繋ぐのに無茶苦茶したらしい。


亜麻色の髪をした少年は感情の見えない瞳で、じっと此方を見ている。時折、パタパタと背中の羽根を動かして…。


……なんか哀れだな。
それが第一印象。汚い人間の歪んだ欲望によって造り出された、背中の羽根。

『こんなモン、勝手に付けられてなぁ』

思わず出た言葉。頭を撫でてやると、パチパチと瞬きをした後…破顔。スリスリと顔を擦り寄せて来る。


『ぷっ、何、お前?』

余程、優しさに飢えていたのか、なつかれてしまった様だった。


『飯、食うか?』

そう問えば、コクリと頷く。こっちの言う言葉は理解出来るらしい。

俺の唯一出来る料理カレーを出してやる。が、見てるだけで…食わない。
口に合わねぇとか贅沢なガキだ!と思い、殴ろうかとしたら…ヨダレが垂れてる。

『あ、そうか。お前手が使えねぇんだったな』


仕方なく、匙にカレーを乗っけて口元へ運ぶ。余程、腹を空かせていたのか、食うわ食うわで、匙や皿、俺の手まで食われるかの勢いで食いやがった。

まぁ、自分の作ったモンを綺麗に食ってくれれば悪い気はしねぇ。雛鳥の餌付けみたいで楽しかったし。


『っと、もうこんな時間か?おい、風呂入れ』

良くみれば少年は、薄汚れた格好をしていた。こう見えても、俺は綺麗好きなんだ。部屋の中に薄汚れた格好の奴なんて置いていたくない。

風呂に入れ!と言ったのに、動かない少年を見てまた気付く。


『あぁ、くそ。独りじゃ入れねぇか。おい一緒に入るぞ!』


…チャポン、ザバン…

目の前の小さな身体中に残る無数の傷痕。

『お前…どんだけ辛い目に合って来たんだ?』

「……パタタ」

声を出せない代わりに、なのか羽根を動かす。

何も語らぬ瞳は、俺を見詰めたままで…。


『なぁ、お前…この先どうなるか、解ってるのか?』

「……パタパタ」


兄貴が迎えに来たら多分、汚い大富豪のオヤジに売り飛ばされて、一生見世物にされて欲望の捌け口にされるんだろうな。壊れたら、ゴミみたいに捨てられて……。


無力な俺は、小さな身体を抱き締めることしか出来なかった。

おそらく何も解っていないだろう少年は、腕の中でパタパタと微かに羽根を動かした。




*駄文失礼しました。

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