《MUMEI》
プロローグ 〜辛抱〜
 「お前、触んじゃねーよ!」

バシッ

「っ・・・痛・・・」
「もっとやれ!」
「何で・・・こんな・・・」
「ぶつぶつ言ってんじゃねーぞ!」
学校に来ては殴られ、机にはたくさんの落書き。辛い。でも、学校は行かなきゃならない。
義務教育だから・・・それと、受験に響いてしまうから。毎日が苦痛でも、耐えて来た。
この前まで親友だと思っていた苺花ちゃんまでもが、私を無視していた。
 そんな日々が一年ほど過ぎたある日、苺花ちゃんが私に話しかけてくる時があった。
私は、何か嫌みでも言ってくるのではないか、と身構えていた。
「・・・ねぇ、琴音。今まで・・・その・・・ごめん。」
「え・・・何が。」
「前まで仲良くしてたのに、無視してごめん。もう一回だけ私にチャンスをくれないかな?この通り。お願い!」
「!・・・それって・・・」
衝撃だった。今まで私を無視してきた苺花が、自ら話しかけてきて、頭まで下げて謝るなんて。
「苺花!どういうことうよ!あんた、まさか此奴の味方なワケ?」
「・・・どうなるか分かってんでしょうね?」
苺花は悔しそうな、困ったような顔になった。
「私は、苺花ちゃんが、そう言ってくれて、嬉しいよ・・・でも、苺花ちゃんまでもが辛い思いをするかも知れない。」
「・・・ううん、苺花は、こう見えても結構強い方だから大丈夫。心配しないで。ありがとう。」
「お礼を言いたいのはこっちの方だよ。私のこと、信じてくれて、ありがとう。」
「おいおい、冗談だろ?此奴の味方なんてしても、メリット無いぞ?考えてからもの言った方が賢明だと思うけど?」
「は?冗談の訳ないでしょ?至って本気。少し考えたら分かるようなことを言わないで。」
!・・・・・・プツン・・・・・・私の中で何か、怒りを抑えていたものが突然切れた気がした。
「あんたら、本当にうるっさい!ちょっと黙ってよ!いつも思ってたけど、みんな幼稚にも程がある!
人の弱みにつけ込んで、何が楽しいかは知らないけど。みっともないし、情けないと思う。
苺花ちゃんが私の肩を持ったからって、嫌がらせなんかしたら絶対に許さないからね!今まで通り、私だけにすればいい話でしょ!
何か違う?他人まで巻き込んでどうするつもり?」
「・・・」
一瞬、場の空気が凍りついた。しかし、すぐにいつもの調子に戻る。
「お前、ぶん殴るぞ!」
「殴りたいなら殴ればいいじゃん?殴れるものなら気の済むまでどうぞ。」
「ナメやがって!この野郎!」

ブンッ・・・

「避けんなこら!」
そう、読んで分かる通り、私は相手のパンチを受け流しているのだ。殴られるのはもう御免だ。
今までの傷だって、痛々しく残ってしまっているものだってある。これ以上増えてしまうと、受験票の顔写真に大きく影響が出てくる可能性がある。
「だから、殴れるものならって言ったでしょ?こっち、来て!」
「え?ちょ、ちょっと・・・」
私は苺花の手を取って、職員室へ走った。でも、男子が追いかけてくる。
私は、あと少しで追いつかれる、というところで職員室に着いた。

ガラッ

「ハァハァ・・・失礼します・・・ハァハァ・・・」
「どうしたのよ、そんなに息を切らして。」
「あ・・・ごめんなさい・・・ちょっとだけ・・・大急ぎで・・・ハァ・・・苺花ちゃん・・・ハァ・・・ハァ・・・は・・・話がしたくて・・・ハァ・・・」
「うん・・・なんとなく話は分かったわ。お茶を持って行くから、そこのソファで話しなさい。」
「先生、ありがとうございます。ほら、琴音、歩ける?少し休んでから」
「うん・・・大丈夫。」
・・・何か、頭がクラクラする・・・。
「私・・・先生から・・・お茶・・・受け取って来る・・・から・・・ちょっと待っててね・・・。」
でも・・・倒れるわけには・・・。
「枝野さ・・・持って・・・よ・・・」
「あ・・・ありがとうございます。」
そう言って、私がお茶を受け取って、足を踏み出した瞬間、私の体が大きく傾いた・・・。
職員室にいたとある男子がその瞬間を見ていたのだった。

バタリ・・・

「琴音!」
私は倒れ、その場で意識を手放してしまった・・・。最後に私の耳に聞こえてきたのは、私の名前を叫んだ、あの子の声だった・・・。

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