《MUMEI》
プロローグ 〜その後〜
〜琴音 保健室にて〜

「真一、あのお盆、給食?」
「そう。琴音のだよ。」
「持ってきてくれたの?ありがとう。」
「ああ。食べられるか?」
「大丈夫!自分で言うのもなんだけど、食い意地だけは張ってる自信あるから!」
って、こんなこと言うなんて、女子力ゼロじゃん!まぁ、無くても困らないけどね。何か、もう吹っ切れた感じだもん。
「なぁ、琴音。」
「ん?何?」
「大丈夫か?」
「え・・・何のこと?」
また嘘ついちゃった。真一が何の話をするのかなんて、分かっていた。心配してくれているのも分かっている。私は、本当のこと話した方がいいの?でも、暗い私なんて嫌いなんじゃない?このまま真一の前では、明るく、元気に振る舞っていた方がいいの?

〜真一 保健室にて〜
 「え・・・何のこと?」
そんなこと言っているけど、本当は分かっているくせに。俺が何の話をしたいかなんて。どれだけ強がりなんだよ・・・。負けず嫌いなのは結構だけどさ。
「分かってるんだろ?俺が言いたいこと。」
「!・・・うん。分かってるよ。でも、真一は、明るい私の方がいいでしょ?そういうことはあまり話したくは無いの。」
「そりゃそうだけど・・・。だけど!あんまり抱え込まなくていい。辛いことを一人で抱え込んで、心の底から明るくいられるか?」
「・・・だよ。」
「何て言った?」
「無理だよ。そんなの。私だって・・・うっ・・・うう・・・。」
何も言わなかったけど・・・こんなに耐えていたのに、気付かなくてごめんな。これから、話を聞いて、ちゃんと支えてやらないと。
「聞いてあげるから、話して?」
「私だって・・・普通に学校生活を送りたい・・・。私は、虐められる為なんかに学校に来てる訳なんかじゃない。友達だってたくさん欲しい。みんなと鬼ごっことか、ドッジボールしたい・・・。普通の女の子として学校にいたい。ただ・・・ただそれだけなのに・・・。」
「俺・・・幼稚園に入る前からお前と一緒にいたのに、気付いてあげられなくてごめん。」
「そりゃ、表情に出さない、口にも出さないんじゃ、気付かないよ、絶対。」
本当に、満点なんだから言い訳できないよな・・・。琴音って、何でこう算数が出来ないのかな?低学年の時はいつも満点取っていたいのに。てか、話してばかりだったけれど、給食、食べたのか?
「琴音、給食、食べた?」
「え?うん!とっくの昔に!」
「昔って・・・ほんの数分前だろ。」
「細かい事は気にしなーい!てね!」
「ははっ・・・ははは・・・」
「!・・・ちょっと!何笑ってんのよ!何かおかしなこと言った?」
「・・・くくく・・・」
「笑いすぎ!何なのか教えてよ!」
「いや、いつもの調子に戻ったな、と思って。何か嬉しいなって思っただけ。」
「ホントにそれだけ?」
「それだけ。」
何が“琴音らしい”のかと言うと、確認のための質問がやたら多いこと。
「そうだ、琴音、授業戻る?もう少しで五時間目はじまるけど。」
「授業、戻るよ。」
「そうだ、教室入ったら、諸島に一番に顔、合わせてやれよ。」
「うん!」
 そんな感じで、一年過ぎ、私は無事に私立へ受かり、学校も卒業式を迎えることができた。ここから、新しい人生が送れる、と思ったことを、後になって後悔することになるのだった。

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