《MUMEI》

 驚いたことに、古本屋キチキチ堂の入口扉は、自動ドアであった。
 何となく、建てつけの悪い木の引き戸みたいな扉だと思っていたのだ。
 偏見である。
「閉まっているね」
 閉店の木札が下がっていた。電気はついていないし、扉の内側に暖簾らしきものがかけられているので、明らかに営業はしていない。
 何とはなしに店の奥の方で人の気配がしないでもなかった。
 春歌が戸口を破る勢いで、がたがた音を発てて、店内を覗こうとする。
 姿を見られたら、少々、外聞が悪いのではないか。
 光基が階下をそれとなく見下ろしていると、間の悪いことに二人連れが階段を上ってきてしまった。
「何やってんですか」
 誰かと思ったら、所員の博田隆也であった。
 惚けた声の若い男が、背後から顔を出す。
「卓? じゃ、ないな。てか何で、博田さんがいんの?」
「水杜くん、どこ行っていたの?」
 光基と春歌が同時に口を開いて、博田ともう一人が緊張感なく、顔を見合せた。
「ちょっと参考までに彼から事情をね、聞いてたんだけど」
「卓の友達? どうも弟がお世話になってます。兄の晶です」
 古本屋の従業員らしい男を、博田が前に出す。
 光基の部活仲間と、そっくりの顔をした男が頭を下げた。よく見たら、少し年長のようだった。
 従業員の水杜晶に店内に入れてもらう。閉めきっていた所為なのか、室内は埃っぽかった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫