《MUMEI》

そう唱えると、生気が自分の体の内側から抜き取られている感覚に襲われた。

「…何かが………何かがおかしい…!」

この手動魔法は、自分のヒットポイントを中間に分け与える事が出来るという効果を持っている。しかし、そのヒットポイントを移動する際、痛みや、ゲームには無い感覚を味わうなんて、聞いた事も無い。

けれども、確かに。

俺を襲った感覚は、ハルに受け渡されたようだ。血液が滴っていた傷口は、三分の一程を残して繋がった。


だというのに、意識が戻らない。


「スキル発動!コード:フィリアブーストセコンドレッグ!」

俺の叫びがフィールド場に響き渡る。こだますると同時に、ハルのヒットポイント回復、俺の脚力アップが同時に実行された。ハルと俺にあった空中での距離は、地面ギリギリの際どい所で縮まり、ハルを両手で手繰り寄せた。

そして、体を力づくで反転させ、俺の背中を地面に向ける。


ゴッ……!


鈍く激しい痛みが俺の全体を一瞬で蝕んだ。通常ならば、この位の…十メートル位の高さから落ちても俺はダメージすら受けない。例え着地に失敗したとしても、ダメージはほんの僅かだ。

今の俺がその状態であるというと、それは嘘になる。


「ぐあ……ぁあ…ぁ………!」


呻き声以外の言葉が何も発せないまま、ハルを抱えて動けなかった。尋常ではない痛みだ。まるで現実世界で十メートルの高さから落ちたような。動けない。全く。

だというのに、ヒットポイントバーを必死に確認して、俺は少しの間痛みを忘れた。


減少したのは、通常通りほんの僅かであった。

「なん…だと……?」

驚愕し、上体をすらっと動かすと、スキルの同時発動の際のフィリアブーストで回復していたハルが、ゆっくりと目を覚ました。

「んぅ……。」

「ハル…!」

痛みが段々と無くなり、まともに言葉を掛けられた。

「…あれ……私……痛…!」

「まだ痛みがあるのか…。スキル発動。コード:フィリゴルト。」


唱えると、また俺から生気が抜けて行く妙な感覚を覚えた。


「ちょっカケル!それ、カケルのHPが…!」


悲しそうな表情で、俺の肩に両手を付いた。

「大丈夫だって。俺はあんまりダメージ受けてないからさ。」


本当は激しい痛みがあったが、ヒットポイントが減少していないのは事実なので、言うのはその部分だけにしておく。

「そう……だけど…。」

チラッと俺のヒットポイントを見て納得してくれたみたいだ。

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