《MUMEI》

「カケル!」

「ハル!」

真っ直ぐ駆け寄って来たハルを、思わず抱き締めた。躊躇う事もせずに、ハルも俺の背中に腕を回した。


「怖かったよ…カケル…。」

「良かった……もう大丈夫だから…怪我ないか?」

聞くと、ハルは俺の腕に顔を埋めこくんと頷いた。

「カケルこそ、怪我、大丈夫?背中…。」

その質問をされ、内心でギクリとしていた。闘っている時は真剣で、あまり痛みを気にしなかったが、正直まだかなり痛い。

「い、いやぁ。もう痛みはないかな。」

自身でもわざとらしいと思わざるを得ない語りで、目を反らす。徐々に腕をそろりと戻していく。


「……スキル発動。コード:ヒーリアブースト。」

「あっ!」


俺の嘘に易々と気付いたハルは、口頭回復魔法を唱えた。みるみる色が甦るヒットポイントバーと、回復した背中。痛みは本当に回復した。

「何があっ、よ。痛いなら言えば良いのに。」

「…いやぁ、だって。なんか色々あったし。」


そう、色々あった。

この短時間に、有り過ぎたのだ。


「…どうして、痛みがあったのか、わかる?」

ハルが、上目遣いで聞いてきた。その表情は、尚も悲壮に溢れている。

「…俺は、サーバー側の犯行だと思う。バグとか、そういうんじゃなくて、さ。」


するとハルは、一度深く目を瞑ってから、応えた。


「私も同意だわ。」


目を開けると、ハルの表情は一変していた。瞳には熱い瞬きが灯り、身体中から凛々しさが出ている。

「やっぱりカケルは凄い。この映像を見る前に、その考えに至るなんて。」


そう言うと、一瞬、ハルの顔に再びしわが寄る。が、すぐに直り、俺の胸に両手を押し当て、体を離した。

「ん、どうした?」

質問には応答せず、その場にしゃがみ、中指と親指で音を響かせる。メニューを開くと、俺からでも伺える所に赤い輝点が浮かんでいた。

ハルは少し躊躇った。

その行為に、俺も無意識にしゃがみ画面を見る。


「…先に言うわ。これは悪戯なんかじゃ…ない。覚悟を決めて。」


その深刻な顔に、俺は重く考え、深く頷いた。


「……ああ。」


明確に答えると、ハルは輝点に震えた指を重ねた。

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