《MUMEI》 9 戦闘開始現れた漆黒の巨刃は、漫画にありがちな優美な装飾が施されている。 現実とはかけ離れた姿だが、刃が少しの光を受けて反射し、ギラギラと光る。 まるで、獲物を見つけたような獰猛さで。 「ほら、お前らも早く出せよ。その間は待っててやる」 と隼斗は白い羽に覆われた胸を逸らし得意げに言う。 挑発的な言葉に、霊は一瞬眉をひそめたがこちらを向く。 「奈子、両手を前に出せ」 反抗する理由もないので、素直に腕を伸ばせた。「前ならえ」のように真っ直ぐに。 「《魔猫の鋭爪》解除」 すると、その凛とした声で呟くとあの水色の輝きが両手からこぼれる。 半ば予想がつきながらも、目をきつく閉じ光が止むのを待つ。 気がついたときに、伸ばされた両手に確かな重量を感じた。 両手を見ると、そこには淡い水色で、金属質の恐ろしく鋭利な爪がついていた。 動物的な先細りの尖った爪が、何枚もの金属板を繋ぎ合わせて肘まで覆っている。 動かすと、がしゃっと音がして、磨き上げられた金属は不必要なまで研がれ、鋭く尖った爪は、触れただけで指がスパンと無くなりそうだ。 ーーこれじゃまるで、“人を殺す為だけに作られている”ような。 「これで揃ったな。いくぞ」 隼斗の声に合わせ、理人さんが背丈程もある大剣を下段に構えた。 緊迫した空気が流れ出し、今にも突進してきそうな理人さんに、慌てた。 「ちょ、ちょっと待って!」 「戦場で“待って”だと?お前すぐ“死ぬ”ぞ!!」 隼斗の怒声が返って来て、剣を構えた理人さんが凄まじいスピードで駆けてくる!! その勢いで、下段の刃が左斜め上に向けて切り上げてきた。 ーーー私の体を狙って。 「ッッ!!」 息を吐く間もなく、咄嗟に右に飛んだ。 刃は宙を切るだけに終わり、私は無様に地面に転がる。 しかしそこでは終わらない。避けることは予想内だったようで、すぐさまこちらに突進してくる。 今度は腰に柄頭を添えて、突くように駆けてくる。 またもや剣先は私の体を捉えていて、意図的に私を刺そうとしている。 ーーー間違いない。 理人さんは、私を“殺そう”としているのだ。 心で確信した。 そして迫りくる漆黒の刃を、右斜め前に半ば転がって避けた。 後ろから切り裂くような音が聞こえ、転がりつつ見ると、木の幹に深々と剣が刺さり、貫通していた。 なんて威力、とゾワリと背筋が凍る。 距離を十分に取って、枯れ葉だらけの体を起き上がらせる。 理人さんも剣を抜くのに苦労したようだが、大樹の組織が破壊されるような嫌な音を立て引き抜く。 「“戦う”って、こういう命を懸けた闘いなの!?」 背後にいるであろう、魚に叫んだ。 「当たり前さ!! 命を懸けた戦いの末、勝者がリングを奪い、敗者は“死ぬ”のみ!!」 いつの間にか遠い木々に移っていた隼斗が、笑いながら答える。 「そんな…こんなことで争わなきゃいけないの!? 話し合いとか…」 「話し合いで譲渡出来るような、簡単な世の中じゃない。まさかそれすらも知らないなんて、冗談にも程があるぜ!!」 ぎゃははは、と隼斗が心の底から笑い出す。 「だからって、人を殺してもいい理由にはならない!!私は…人を殺さない…ッ」 「じゃあどうすりゃいいんだよ!?」 ダンッ!!とふくろうが木を殴った。 その声には怒気が彩られていて、その剥き出しの怒りが向かう。 「今いつ世界が抹消してもおかしくない状態がもう百年続いてるんだ!! なのに誰一人として12のリングを集められてねぇんだ! 何故か? 全員自分の保身の為なんだよ!! 皆自分の願いを叶えたいから、いつまで経っても集まんねぇんだよッ!! じゃあお前が俺達にリングをくれよ!?話し合いの結果、お前がリングを譲る事になって願いは俺らのもん、って言われて喜んで差し出せるのかよ!?」 その絶叫に、答えられなかった。 「ほらみろ、結局は自己保身か!! 自分の願いだけに動いてるんだよ!! だから俺らはこうやって相手を殺してまで奪い合ってるくだらねえ事百年も続けてるんだよッ!!」 奥底の怒りを吐き出すように叫んだ。 心の中が、ズキっと痛んだ。 まるで、私の事だ。と。 前へ |次へ |
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