《MUMEI》

待って

皆がこちらに背を向け離れていく。
桜が舞う。

待って

手を伸ばす。届かない。

突如、視界を赤が覆った。
かすかに見える浅葱色。


「待って!!!」

勢いよく起き上がる。
見慣れた屯所の天井。

「夢…………?」

千鶴は目を擦る。

「どうかしたか?」

部屋の襖の外から土方の声がした。

「いえ…………。夢を見たんです。」

「夢………?」

「皆がいなくなって…………。」

「千鶴を置いて俺達がいなくなる訳がないだろう?」

土方はあり得ないと肩をくすめる。

「ありがとうございます……。」

「もうすぐ飯だ。早く支度しろよ?」

そう言って立ち去って行った。

「はいっ!!」

大きな声で返事をした。
二度とその背を見失わないように……。

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