《MUMEI》

《但し、ヒットポイントが零になってからでも、コンティニュー画面が表示される十秒間に、仲間やパーティメンバーに蘇生して頂ければ、現実でも死にはしません。》


淡々と話を進めるその男に、苛立ちと焦りを抱いた。

この映像が発表されてからこのルールが適用されている所を見ると、俺は寒気を感じざるを得ない。

何故なら、俺が蛾と戦闘を繰り広げている時、既にそのルールが適用されているからだ。現在時刻は十五時五十一分。確実だろう。


《そして、それだけでは終わらない。》


少し―…いや、かなり溜めてから、矢吹慶一郎はニヤリと不敵な笑みを見せた。


《現在時刻から一時間後にゲーム内に存在するプレイヤーは、ゲームから出られなくなります。》


俺は目を見開くでもなく、時が止まった様に動けなかった。


《勿論、出る方法は有ります。確かに。一つは、今から一時間以内にログアウトを完了させる事。そしてもう一つは、ミリオンヘイムオンラインをクリアすること。後者の方が断然に難しいと、私達は踏んでいます。》

律儀な言葉と理不尽な説明。当然前者を選びたい。筈なのだが―――……。

《しかし、今から一時間以内にログアウトしたプレイヤーは、その後、ミリオンヘイムオンラインがクリアされるまでゲーム内への侵入は許可されません。これは、絶対です。それともう一つ。このルールを聞いて、ログアウトするもゲーム内での攻略を目指すも個々の自由ですが、注意点を二つ程。》


そう言うと、矢吹慶一郎の左肩の横辺りに、37426938という数字が見えた。


《この数字は、現在ミリオンヘイムオンライン内に居る人間の数を示しています。そして、その数が十万を下回ったら、ゲームと、外界を完璧に遮断します。つまり、半永久的にゲームから出られなくなる、という事です。》

この説明は、あまりにも酷過ぎる。回るスロットの様に減少していくプレイヤー人数からは、焦りしか伝わって来ない。

《それからこのゲームが始まったその瞬間から、ログアウトは勿論、ログインも出来なくなります。十六時前ならば、ログアウトは出来ます。しかし、それからのログインは認められません。》
俺にとって…そして多分、ハルにとっても、この選択は究極だ。


どうするべきか。


無慈悲にも、十六時までのカウントダウンは、残り約六分だ。


《それでは、より良い選択を。》


画面は少しのエフェクトと共に消え去る。最後の矢吹慶一郎の笑顔は、妙に印象的だ。

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