《MUMEI》

 いつからいたのか、対象と同年代ぐらいの女子が腕組みをして立っていた。
 雰囲気は全く違い、場違いなエネルギーを持った人物である。
「もしかして、古本屋の従業員」
「そうだけど? どうでもいいから、この娘に帰るよう説得してくれない」
「え、無理だし」
「君も帰れないんでしょう?何とか努力してよ」
 畳み掛けるように迫られて、思考が逃避する。
 春歌と水杜はどうなっただろうか。
 今、姿が見えないということに、光基は何だか自分一人貧乏くじを引いたような嫌な予感がする。
 恐らく、博田が何らかの策を講じるに違いない。
「多分だけど、もうしばらくすれば帰れると思うよ。二週間も待ったんだから、もうちょっと待ってよ」
「二週間っつった? あたしら、二週間も放置っっ?!」
 もしかして、時間経過の感覚が狂っているのだろうか。
 光基が恐る々々、これまでの経緯を簡単に説明すると、女従業員の目の色が変わる。対象のも反応したかもしれない。
 やっぱり、二週間というのは問題だった。
「これは、彼氏んとこにすぐ帰る必要ないっしょ。いや、帰んなくていいっしょ」
「いやいや、一応、心配してたんだから」
 光基は、水杜さんも店閉めてまで探してたよと、つけ加える。
「一応」
「確かに、憤りはわからないでもない。すぐに探さない心理はわかんないし。どうすればいいのかわからなかったんじゃないの? 阿呆だから。この辺で妥協してやるしかないって。男なんていざとなったら、抜けてて役立たないんだから」
 最後のところは、対象の彼女へ向けて語りかける。

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