《MUMEI》
ため息、ひとつ。
正直、わたしはもうこのスーパーに来たくないと思い始めた。

そういえば、入口近くに投書コーナーがあったなぁ…なんてことまで考えていた。


『馴れ馴れしい店員さんが居ます』

書くのならこうだろうけど、こんなことで飯嶋さんを晒すようなマネをしてもいいのだろうか…。


だから、躊躇った。



でも、
わたしとアキのテリトリーに無断で入り込まれるのはごめんだった。

だから、飯嶋さんには二度と会いたくない。



必死な自分に気が付いたけど、考えは止まらない。

アキも何か察してくれているようで、無言で会計を済ますわたしを静かに手伝ってくれる。



ごめんね、アキ。





「幸せが逃げる。…あ、また逃げる」

マンションまでの帰り道、急に口を開いたかと思ったらアキはこんなことを言い出した。


「え?」

「溜め息、吐いてる。幸せが逃げちゃうよ」


鶏肉やたまごが入った袋を片手に、少し切ない笑顔のアキ。


「あ…。そう、云われてるよね…」

答えながら、また溜め息を吐こうとしている自分に気が付く。



「あたしはさ、別にあの店じゃなくてもいいよ。ネットでも買い物は出来るし、人に極力会わずに居ることだって出来るから」

「見透かされてるなぁ…」

「あたしが最初に『友達として傍に居て』って云ったんだもん。あんたはそれを守ってくれてる、そうでしょ?」





多分、それだけじゃないってことを、

わたしはその時、やっと思い知らされたんだ。

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