《MUMEI》

 「……なっちゃん。コレ、何?」
岡本の、若干怪訝な声が問う事をきた
休日の昼下がり、アパートのロビー
普段なら人などあまりいないはずのそこが、今日に限ってどうしてか騒がしかった
足元にはその元凶らが元気よく走り回り
前野らへとじゃれついてくる
「……ペットショップでも始めるの?」
ソコに居るのは、大量の犬猫
ロビーをすっかり占領してしまうほどの数に
前野は顔をひきつらせ、深く溜息を付いてしまっていた
「あっ、こいつ可愛い。千秋、見て」
「……本当、可愛い」
楽しげに犬猫と戯れ始める村山と岡本
だがこのままでいいはずは当然なく
前野は現状を作り出したと思われる住人のもとへ
戸をノックすることも、伺いを立てる事もせず手荒く戸を開けば
その部屋の隅に、巨大な毛布の塊が見えた
「な、那智!何か部屋の隅に変なものが!!」
驚いたらしい村山に勢いよく腕を引かれる
だがそれが何かを分かっていた前野はさして驚く事はせず
「……あれ、ここの住人だ」
覚えていないのか、と村山へと怪訝な表情を向ける
村山は暫く考え込んだ素振りを見せていたが、思い出すことが出来たのか手を打った
「あれ、捲ってみるべきか?」
「そりゃそうだろ。基一、お前捲って来いよ」
「なんで俺!?那智がやればいいだろ!」
「面倒くせぇ」
「……じゃ、私が捲る」
その役を買って出たのは、岡本
大儀だと尻込みする男二人を放り置き、躊躇もなくその毛布の塊の元へ
そして一言の声も掛ける事なくそれを引き剥がしていた
そこから現れたのは一人の男
騒音の原因 その二
一階 107号室 片平 修二
毛布の中にまで動物を匿っていたらしく、子猫に塗れている
「何をするんですか!?」
さも侵害だと言いたげな相手
だが、それはこちらが言いたいと、前野は片平の様を見、顔を引きつらせる
「……増えてんだけど」
指差しで数を数えてみれば以前見た時より確実に増えている
その事を指摘してやれば
「仕方ないじゃないですか!この子たち捨てられてたんですよ!可哀想でしょう!!」
動物たちがここに居る事を正当化してくる
確かに、無垢な子猫たちを見て、癒されないではない
だがしかしだ
「……物事限度ってもんがあるだろうが」
溜息交じりに愚痴ってしまえば、片平からは縋るような視線で見上げられる
どうにか、見逃して欲しい
無言のソレに、だが一応大家として見逃す事は出来ない
「ま、まさか、この子猫たちを捨てて来いって言うんじゃ……」
「そのまさかだ」
「この人でなし!鬼!悪魔!」
随分な言われようだがあえて言い返す事はせず
足元にじゃれついてくる子猫を抱え上げてやった次の瞬間
「……待って。なっちゃん」
岡本から、制止の声が鳴る
どうしたのかと向いて直ってやれば岡本は前野から子猫を受け取っていた
「……飼ってくれる人、探す。手伝ってくれる?」
お願いと見あげてくそれに
加えて子猫さえもそう訴えてきている様な気がして
前野は断るに断れなくなってしまう
「……那智、お前も大概千秋に弱いよな」
「ほっとけ」
村山からの指摘に、だが反論することが出来ず短く返せば
岡本はその二人の様子に嬉しそうに顔を綻ばせていた
「いい子にして、待ってて。ちゃんとした飼い主、見つけてきてあげるから」
飼い主ではなく猫達へと伝えてやり、岡本は外へ
その後に前野らも続きながら
「で?何か宛てでもある訳か?千秋」
肝心要を聞いてみる
岡本は暫くの間を開けた後
何処から持ってきたのか、籠に子猫すべて集め外へ出る
何処へ行くのか
前野・村山、どちらからともなく尋ねてみれば
「……私の、学校。みんなに、聞いてみる」
「学校って、今日休みだろうが」
指摘してやるが岡本は平気と一言で外へ
そのあとに二人も続き、数分歩いた先にある岡本が通う高校へ
「あっ!千秋!こっち、こっち!」
すでに友人は来ていたらしく、正門前に手を岡本へと手を振って見せる
「ね、千秋。もしかして、友達態々呼んだの?」
休日であるにも関わらずソコに在る姿につい問うてしまえば
岡本はゆるゆると首を横へと振りながら
「遊ぶ約束、してたから」
「そう?なら、いいんだけど」
「それに、二人とも、なっちゃんとキイ君に会いたがってた」

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