《MUMEI》
10
「…これで、分かったかよ。魔法少女達が殺し合うのは必然だ。それは人間的な独占欲で生まれ、決して埋まらない溝だ。こんなの、とっくの昔に決まってるんだ」

隼斗は少々ばつが悪そうな顔して、無機質な黄金の目を伏せた。

きっと、隼斗も理人さんも私と同じ事を考えた。何度も何度も。
そして、必ず結論は同じだった。だからこそ、イラついて歯がゆい思いをしているんだ。


「俺達は殺し合う運命なんだ。自分の為に、相手がどうなろうと構わない。そうまでしないと」

一一一自分が、殺される。
言葉にしなくても、淋しげな表情からありありと伝わってくる。


他者犠牲。

この事を題名にした作品は、世界中にありふれている。
その犠牲は、必ず欲望の元にあった。
誰かが望むから、誰かが報われない。

しかし、望むことを止めるというのは不可能だ。
それが人間の本質であり、性なのだから。


そう、あの時。
母が殺された日も。

あの頃抱きかかえられた私には、犯人の表情姿が見えていた。
勿論、その手に握られたナイフも。


その凶悪な銀色の刃が、母の体に吸い込まれるのをただ見ている事しか出来なかった。


いや。
そんなの言い訳だ。

あの瞬間、本当に母を守ろうという思いがあれば、身を艇してでも母をかばえること位は出来た。


でも、私は一瞬で自分の命と母の命を天秤にかけた。
結果は勿論、私の命のほうが重かった。

私は、この後に及んでまで自分の欲を選んだのだ。
愛する、たった一人の母を見捨てて。


そんなの、私が母を殺したのと同じだ。


その命までも左右する欲を捨て、快くリングを差し出すのは希望をも捨てるのと等しいだろう。
誰もが、自分自身の為に欲望を捨て切れず、結局は武力で解決するという方法になったのだろう。


敗者はそこで命を落とし、強者がリングを持ち去る。
そしてまた次の戦いへと身を投げ打つのだ。


自分自身の欲望を満たす為に。
そしてこの神様は、残酷で残虐だ。



「……柄にもないな。ちょっと話過ぎた」
隼斗は、羽で悲しげな顔を拭うように顔面を隠し、すぐ現れた顔は、数分前に見た挑発的な表情が浮かんでいた。


「どうやらお前はスピード型と見た。ヒット型の俺らに有利だと推定する。次で決めるぞ理人」

「……分かった」


八ッとして理人さんのほうに視線を向けたが、理人さんの動きが一瞬早かった。
すぐさま腰を落とし、低い姿勢のまま接近してくる。

一気に2m程まで来たと思うと、回転を加えた下段からの切り上げがきらめく。受けに回らざるを得なくなり、歯を噛み締め上体を後ろに倒した。


目の前に漆黒の刃がぶんっ!!と空気を切り裂き、振動が風圧が顔に吹き荒れる。
しかし回避は予想済みだったようで、左から足蹴りが飛んできた。
安定な状態で回避もままならず、横腹に膝がのめり込む。


激痛が襲ってくるかと思ったが、不思議と痛みという痛いは感じなかった。
だが、風圧と衝撃は完全に打ち消せず、数m低空で吹き飛んだ。

そのまま堅い木に全身がぶち当たる。
背中から派手に打ちつけられ、ドンッ!!と激しく枝を揺らし、ズルズルと座り込む。

またもや痛感はほとんど無いが、ビリビリ振動する衝撃だけは体中を突き抜け、手足が内側から痺れる。


肺の空気を吐き出して、過呼吸気味に息を紡ぐ。ひゅうひゅうと喉の奥が乾いた音を鳴らす。


しかしきらめく刃は待ってくれようもなかった。
ピキリと硬質な重量を持った、漆黒の刃が頭上から振り下ろされた。

背中に木がついている為、後ろには避けられない。左右もへたりこんだせいで、移動の為立つ間に私は縦に真っ二つだ。

加速する思考の中、無意識に両手を前に出し、そのまま、頭を守るように頭上でクロスをした。


ギィィン!!


金属同士の擦れ合う、嫌な音が激しく響き、黒と水色の火花を散らした。
目を見開き、驚きを隠せないような表情をする理人さんと目が合う。

なんて、ムチャクチャを…!!

私はなんと両手に装備されたガントレットのような金属グローブで、刃を受け止めたのだ。正直自分もビックリした。

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