《MUMEI》
リサイド オブ マイン
泣きじゃくる電話越しの娘の声。

おがあざん、お兄ぢゃんがぁ…うぇ…ゲームのながにぃ……うわぁぁぁぁぁあん!

耳から離れずにエンドレスで脳内に響いていた。

「あの馬鹿息子共……!」

何度電話を掛けても応答は留守番電話サービスに接続する。昔から下の妹よりも、割ととんでもない事をしでかす子供だったけど、まさかここまでとは。


電車に早くしろと叫んでしまいそうな程に焦っていた。

まさか会社に掛かってきた電話であんな事を言われるとは。

「坂上智子様ですね?貴女の息子様の坂上翔様と坂上昴様がミリオンヘイムオンラインというオンラインゲームの中に閉じ込められた事が確認されました。これは前例の無い多大なテロです。今すぐに自宅へお帰り頂きますよう、宜しくお願い致します。」

そう言って、返事をする間も無く切られたのだ。

携帯端末をワンセグに接続すると、確かにその事件が報道されていた。そして驚く事に、被害者は自ら参加しているのだと言う。報道では`被害者は一時間の猶予を与えられ、残った場合の説明もされた。しかし、ゲームをしたいが故に、ログアウトしなかった。´と言われていた。

まだ報道されていない内容は多数あるだろう。この話の何処までが本当かは判らない。

この事件――…。


「ごめんね馬鹿息子共。こんな母さんでさ。」


息子への不安は残る。が、しかし。


ゲーム内に残されただけであって、まだ息子は死んでいない。

これはあくまで希望だが、私の息子がテロごときに負ける訳が無い。

昔からかなりの事件に巻き込まれた私だが、今尚此処に健在している。新聞記者という職業もその性格と運が大きく関わっている。

これはチャンスだ。そう考えろ。

自身に命令を下し、深く目を瞑る。十数秒たっぷりと使い、目を開ける。そして携帯端末を鞄から取り出し、慣れた手付きで電話帳を開き、自宅を選び、電話を掛ける。

周りの視線に小さく会釈をしてから、真剣な表情に戻る。電車内で携帯の使用は認められていない。通報されたらされたでどうにかする!

そう意気込むが、耳には呼び出し音が響鳴している。

そして、聞き飽きた留守番電話サービス。

「くそっ…。」

思わずそう漏らし、携帯端末を人差し指で思いきり閉じた。


《次は桜ヶ丘――桜ヶ丘――…》


音声案内が耳に入り、すぐに携帯端末を鞄の定位置にしまった。

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