《MUMEI》

だがそれは、嵐の前の一瞬の静けさだ。


バリバリバリーー!!


とうとう暗雲渦巻く空を引き裂くように、雷の光が走った。
それを合図としたように、小高い丘の上で、馬上のジンムの右手がサッと上がる。


『放て!!』



その意を受けて、ヨモツの念が戦場の
兵士達の頭蓋内でこだました。
長弓の弦の鳴る音とともに、幾万の矢が一斉に雨天の空に吸い込まれていく。
と見るや、カーブを描きその軌跡を地上に向ける。
それは黒い、人の肉体を刺し貫く雨だ。
その恐ろしい雨は、アラハバキ族の頭上で扇状に広がっていった。


次の瞬間・・・・


おびただしい矢雨が弾かれた。
それはまるで、アラハバキの陣営が目に見えない巨大な球形のドームに、すっぽりと覆われたかに見えた。
帯剣するアラハバキの戦士達の口から、


「魂は不滅!星よ、導きたまえ!!」


叫びが上がると、鞘から銀色に輝く剣が次々と
抜きはなたれた。


ドドドドドド!!!!!!!!


数十万の騎馬軍団が大地を揺るがし迫り来る。
それに対するはわずか数百の戦士。
狂気!無謀!と言うしかない。
その通りだ。
アラハバキは狂気の戦士達だった。


ウオオオオオオ!!!!


大和軍に突進していくひとりひとりの顔には、荒ラブル神に取り憑かれたような鬼相が浮かんでいた。

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