《MUMEI》 「なんでよぉ…沙弥を置いてきぼりにしないでよ…。」 ショウ兄 お兄ちゃん ずっと一緒だと思ったのに。 私は裏切られた気分だった。突然、二人の兄がゲームに閉じ込められたなど、聞いた事も無い。事実としては受け入れ難いものだ。 現在時刻十六時五十八分。 警察から連絡が来たのが十六時十九分。かれこれもう三十分近く独りで泣いていた事になる。 そして、今も途絶える事ななく流れ続けている。 「ショウ兄、お兄ちゃん…。沙弥も其処に行きたいよぉ…ゲームの中に…!」 そう思っていた――…呟いた瞬間。 ガチャガチャ 玄関を誰かが開こうとする音がした。 時間的に母であると過信した。頭が上手く回らなかった。 玄関へ駆けて行き、迷いなく鍵を開けた。 「お母さん!」 勢い良く玄関を開けると、其処に母は居なかった。 「こんにちは。君が坂上沙弥ちゃんだね?」 見知らぬ男性が三人。話し掛けて来たのは、真ん中の焦げ茶髪の男性。その後ろの二人は、漆黒のスーツ姿に、一人はスキンヘッド。もう一人は金の長髪という、まさに、といった外見をしていた。 反射的に私は扉を閉めかけた。 しかし。 「君の二人のお兄さんの事は聞いたね?そこで、だ。君にミリオンヘイムオンラインへの参加権を与えよう。」 その言葉を聞き、気付けば私は答えていた。 「なら、早く。私を連れて行って。」 そんな私を見て、男は少し驚いていた。 「…君も彼等と血が繋がっているんだと、改めて思うよ。」 「いいから、早く。」 更に急かすと、男はにこりと不適に笑った。 「では此方へ。」 家の前にこちらも漆黒の、高級外車ベンツが停まっていた。多少浮き足だったが私は真っ直ぐに歩く。お兄ちゃんに会えると思うと、胸が高鳴った。 「おおっと、自己紹介を忘れていた。」 ベンツのドアを開けた所で、男はわざとらしくリアクションをとった。 「僕の名は矢吹慶一郎。覚えておいてくれ。」 「忘れなかったらね。」 無意識に、お決まりの文句を言った自分に、存外驚いた私だ。 前へ |次へ |
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