《MUMEI》

木々の向こうに見える屋敷が近づいて来ると、摩起はいつものようになるべくそちらの方向を見ないように、伏し目がちに歩く。
それでも、すでに何百回も通り過ぎながら、ちらちら見ている屋敷の姿は、肉眼で見なくても、意識の底に焼きついていた。
まるで死人の肌のように、病的な感じがする白い壁。
それはところどころひび割れて、赤黒い黴−カビ−が覆っている。
すっかりガラスの割れ落ちた、黒い二つの窓と朱塗りのドアが、眼球を失って苦痛の叫びを上げる人間の顔のように見える。
屋敷全体を覆い、屋根から被さるように垂れ下がる蔦草が髪の毛のように見えなくもないため、そのおぞましいイメージがさらに強調されていた。
それは死の直前、絶望と恐怖に支配され、断末魔の叫びを上げる人間の顔だ。
夢の中で摩起は、周囲の樹木をなぎ倒しながら迫るその巨大な顔に終われて、赤い口の中に飲み込まれるのだ。
そして現実である今のこの瞬間も、幽霊屋敷は窓にカムフラージュした黒い虚ろな目で、
通り過ぎていく摩起の姿を、舌なめずりしながら見ている気がした。

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