《MUMEI》
7日前
 「……なんでお前、こんな事してんだ?」
翌日、何となくまた図書室を訪れてみれば
彼女は相も変わらず片付けに働いていた
問うたそれに答えを返してくれることもせず
高い位置にある棚へ本を直そうと爪先立つ
「……貸せ」
呻く小声を上げながら背を伸ばすその様に彼女から本を取り
自分はあっさりとそこへと入れてやった
そこで、ひと段落
一言ありがとうを伝え、彼女は近くあった椅子へと腰を降ろす
「何読んでんだ?」
テーブルの上に一冊だけ置いてあった本を読み始めた彼女
真剣なその様に、何を読んでいるのか覗き込んで見れば
何やら小難しげな専門書だった
それが一体何の専門書であるのかあすら分からず
自分は彼女の向かいへと腰を下ろすとその様を眺め見る
「……面白いか?それ」
分厚すぎるソレに、あまり読書等が得意ではない自分は表情をゆがめる
枕にして眠ったらよさそうだと冗談めいた事を愚痴れば
彼女が僅かに笑う声を漏らし、また頁を捲る
今日は、機嫌がいい
その横顔を自分は机に頬杖を突き眺めていると
目の前に、昨日の本が置かれる
何処に直すのか、分かった?
直して見ろ、と言われていたのをすっかり忘れていた
今、無駄に悩んでみせるのも態とらしいと
自分は両の手を上げ降参の意を示す
彼女は浮かべた笑みをそのままに、その本を元の位置へと戻していた
戻す場所を当てられなかった代わりに片づけを手伝え
よもやそんな交換条件を用意していようとは思いもせず
自分が苦笑を浮かべてしまえばそれが返事替わり
彼女は満足げに笑みを浮かべると
さっそく自分へと数冊本を束ね渡してきた
本それぞれ片す場所を指定し
自分はその指示に従い本を片していく
作業は順調に進み一段落
脚立に腰を降ろし、何気なく周りを見回した
次の瞬間
世界に罅が入るような派手な音が鳴った
そしてすぐに起こった地鳴り
その揺れに、本棚へと整理したばかりの本が雪崩れる様に崩れてきてしまう
一面に散らばってしまった本
彼女は何を愚痴るでもなく、散らばってしまった本をまた片付け始めた
付いてしまった埃を一冊一冊丁寧に払いながら片していく
自分も彼女の傍らへと膝を降り、及ばずながらも手伝ってやれば
……ありがとう
照れた様に顔を伏せ、小声で礼の言葉
可愛らしい処もあるのだと意外な一面に自分は肩を揺らし、どういたしましてを返すと
それ以上互いに交わす言葉も少ないまま、片付ける事に勤しんだのだった……

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