《MUMEI》

飛の能力は…おそらく血液を操るものだ。
床一面に血液が広がるこの場所は、奴の絶好の狩場のはず。

…だけど、私にも希望があるはず。

吹雪。

私には温度を操る能力がある。


飛ははやくたてよーと騒いでいる。


…立てなくたって、私は戦えるよ。


体全身に思いっきり力を込めて、痛みに耐えながら歯を食いしばる。

自分の浸かっていた浅い血の湖が、ピキピキと音を立ててゆく。

「なんだぁ?」

飛はおいしそうな獲物を見つけたような笑顔で跳ねている。

今だ。

梓の周りが一斉に凍りつき、紅い氷柱がクリスタルのような輝きをまといながら飛び出てくる。
それと同時に、飛の方へと氷柱は広がっていき、まるでルビーの山のようになった。

飛はバク宙してよけた。が、着地地点に針山。

「なっ」

片足で着地し、飛の脚を貫いた。

「おもしれェな、お前」

歪んだ笑みが、まるで口裂けオバケのよう。
狂った感情が飛を乗っ取っていくように。

「久しぶりだ!!こんな面白いの!ギャハ!ギャハハハハーッ!!」

狂った。
狂っている。
壊れた。

奴の何かが崩壊した。

きっとその“何か”とは、感情を人間の域にとどめているストッパーだ。

今の飛はもうヒトの飛じゃなかった。

――――完全に血に狂う獣と化していた。



正直言って怖い。

こんなやつに戦いを吹っ掛けた私も怖い。

え?なんでこんなやつに向かっていったんだ?私。

――逃げたい。

逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい。

でも、このストッパーを壊してしまったのは誰だ?

―――私だ。


こんな怪物、放っておいたらここの人はみんな全滅だ。

一人犠牲が出るのと、ここの人間が全滅するの、どっちがいい?

―――当然、一人の犠牲が出るほうに決まってるでしょ。


その犠牲となるのが私。


命をかけても、この怪物を殺す!

私は、“新たな人生”を歩みたくて、面白そうなこのゲームに首を突っ込んだ。

そのおかげで、こんな漫画みたいな展開に遭遇しているんだ。もう充分なんだよ。

だから、私が―――――!!!




「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

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